伊藤潤二(いとう・じゅんじ)/1963年、岐阜県生まれ。87年、『富江』でデビュー。2021年に『幻怪地帯』。19年、21年にアイズナー賞受賞(撮影/写真部・東川哲也)
伊藤潤二(いとう・じゅんじ)/1963年、岐阜県生まれ。87年、『富江』でデビュー。2021年に『幻怪地帯』。19年、21年にアイズナー賞受賞(撮影/写真部・東川哲也)
アイズナー賞の「最優秀アジア作品賞」を受賞した『地獄星レミナ』から。この緻密な絵にファンが多い(JIGOKUSEI REMINA (c) 2005 JI Inc./SHOGAKUKAN
アイズナー賞の「最優秀アジア作品賞」を受賞した『地獄星レミナ』から。この緻密な絵にファンが多い(JIGOKUSEI REMINA (c) 2005 JI Inc./SHOGAKUKAN
2019年にアイズナー賞を受賞した『フランケンシュタイン』の本とフィギュア。おぞましくも美しい伊藤ワールドの人気は世界レベルだ(撮影/写真部・辻菜々子)
2019年にアイズナー賞を受賞した『フランケンシュタイン』の本とフィギュア。おぞましくも美しい伊藤ワールドの人気は世界レベルだ(撮影/写真部・辻菜々子)

 ホラー漫画家・伊藤潤二さんが漫画界のアカデミー賞「アイズナー賞」を受賞した。「最優秀アジア作品賞」と「Best Writer/Artist部門」の2部門での受賞で、中でも後者の日本人受賞は初。AERA 2021年8月9日号では、海外でも高く評価された伊藤作品、そして伊藤さんの魅力に迫った。

【アイズナー賞の「最優秀アジア作品賞」を受賞した『地獄星レミナ』はこちら】

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 伊藤さんは1986年、歯科技工士の仕事の傍ら描いた『富江』で「楳図賞」に佳作入選し、翌年デビューした。35年にわたる漫画家生活において、奇想天外なアイデアと緻密でありながらおぞましくも美しい絵で多くのファンを魅了し、200タイトル近い作品を世に送り出してきた。

 伊藤作品はフランス、スペイン、台湾や中国など20を超える国・地域で翻訳されている。海外での人気が高まりだしたのは、2015年ごろだ。フランスのアングレーム国際漫画祭にゲスト出演し、台湾をはじめ北京や上海など8カ所を回る個展も大盛況。SNSには代表作「富江」や「うずまき」の登場人物のコスプレをする世界中のファンの写真がアップされている。

■1枚絵のインパクト

 アイズナー賞受賞の発表に先駆けてツイッターで「#伊藤潤二」「#首吊り気球」がトレンド入りしたことも話題になった。東京・渋谷の代々木公園上空に出現した巨大な顔のアート。それを見た人々が一斉に伊藤さんの人気短編「『首吊り気球』のようだ!」と投稿したのだ。アイズナー賞受賞作『伊藤潤二短編集 BEST OF BEST』に収録されている『阿彌殻断層の怪』もまた高い人気を誇る作品だ。

「『阿彌殻~』は特にアメリカで人気が高いようで、ツイッターでときどき『自分の穴に入っていく』というシチュエーションを画像にして、つぶやいている方を見ます(笑)」(伊藤さん)

 自身は海外での人気の理由をどう捉えているのだろう。

「1枚の絵でバーンと見せるインパクトや、頭をひねって生み出したアイデアを評価してもらっているのかな、とも思います。昔から海外の怪奇小説をよく読んでいたことも一因かもしれません。特に世界の古典作品を集めた『怪奇小説傑作集』(創元推理文庫)が好きで、秀逸なアイデアで徐々に恐怖を盛り上げていく物語にかなり影響を受けてきた。そのあたりも海外の方に受け入れていただけた理由かもしれません」

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