ちば・てつや/1939年、東京生まれ。両親とともに旧満州・奉天(現中国・遼寧省瀋陽)に渡り、終戦の翌年、中国から引き揚げる。56年、単行本作品でプロデビュー以来、さまざまなジャンルで活躍を続ける。公益社団法人日本漫画家協会会長(撮影/写真部・高野楓菜)
ちば・てつや/1939年、東京生まれ。両親とともに旧満州・奉天(現中国・遼寧省瀋陽)に渡り、終戦の翌年、中国から引き揚げる。56年、単行本作品でプロデビュー以来、さまざまなジャンルで活躍を続ける。公益社団法人日本漫画家協会会長(撮影/写真部・高野楓菜)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】『あしたのジョー』の憂いは少女マンガにルーツあり

 漫画家・ちばてつやさんの自伝的作品をおさめた23年ぶりの短編集『あしあと ちばてつや追想短編集』が刊行された。太平洋戦争敗戦後、中国・旧満州からの引き揚げ体験を描いた「家路1945−2003」。漫画家デビュー時の謎の体調不良の日々を振り返る「赤い虫」、トキワ荘グループとの交流のきっかけとなった、ある事件とその顛末をめぐる「トモガキ」──貸本漫画から少女漫画、そして少年、青年漫画へと戦後漫画史とともに歩んだ著者の短編漫画4作がカラーページも含め完全収録されている。ちばさんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *

「なぜ自分は漫画家になったのだろうか──と考えると、満州から引き揚げてきたときの体験のせいかもしれない、と、振り返って思うんです」

 今なお熱狂的な読者を獲得し続けている『あしたのジョー』をはじめ、数々の名作漫画を発表してきた、ちばてつやさん(82)。

 戦後、貸本漫画からデビューし、少女漫画、少年漫画、そして青年漫画へと、戦後の漫画史と歩みをともにしてきた存在だ。本書はちばさん自身の引き揚げ体験を描いた「家路」をはじめ、戦後漫画史の様子を生き生きと伝える自伝的な作品4編をおさめた、23年ぶりの短編集だ。同時期に出版した『ひねもすのたり日記4』では、戦争体験とともにコロナ禍の出来事も描いている。

「『家路』は戦後60年の節目として依頼されて描いたものです。自分の重く、つらい体験は、それまで描かないようにしてきました。漫画は娯楽、楽しんでもらうためのものですから、読者に読んでもらって面白いと思ってもらえるか自信がなかった。『家路』では、絵で少し息がぬけるようにはしましたが、すべて本当のことですし、迷いながら描いたんです」

 引き揚げの途中、父の同僚だった中国人の屋根裏部屋に匿ってもらった。

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