中室牧子(なかむろ・まきこ)/慶應義塾大学総合政策学部教授。著書に『「学力」の経済学』、共著に『「原因と結果」の経済学』など(本人提供)
中室牧子(なかむろ・まきこ)/慶應義塾大学総合政策学部教授。著書に『「学力」の経済学』、共著に『「原因と結果」の経済学』など(本人提供)

 新型コロナウイルスによる休校は、子どもたちの教育格差に影響を与えているという。AERA 2021年8月2日号で、教育経済学者・中室牧子さんに話を聞いた。

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 コロナ禍以前から、親の収入による子どもの学力の「格差」は存在していました。お金というリソースだけでなく、「親の教育熱心さの差」によっても差がもたらされるということを示した研究もあります。保護者のリソースや価値観によって、子どもの学力格差が拡大したことを示す調査や研究がこれまでも多く発表されています。私はこうしたものに加え、保護者が子どもの教育に充てられる「時間」も格差を拡大させる原因ではないかと考えています。

 コロナ禍以前の海外の臨時休校に関する研究では、低学年の子どもの学力に与える負の影響が大きいことが示されています。低学年の間は先生や親が不在だと、自立的に勉強することが難しいということです。

 実際、こうした傾向は私たちが関わった「埼玉県学力・学習状況調査」にも表れています。公立小中1100校30万人について2019年度と臨時休校後の20年度を比較すると、家庭内の時間の使い方に変化があります。20年度には、特に小学校の低学年でスマホやゲームの時間が増加し、それが平日の学習時間の増加幅を上回っています。

 東京大学の山口慎太郎教授らの研究では、中高生は臨時休校中にもオンラインなどで学習を継続したことが示されています。学年が上がるにつれて自立的に勉強する傾向がありました。ただ、オンライン学習をしたのは偏差値の高い学校の子どもたちであることもわかっており、コロナ禍以前から学習習慣があったかどうかが影響している点も気になるところです。

 また、学校間格差もあります。20年度に埼玉県の公立小中学校を対象に行った3度の調査によれば、夏休み明けまでに臨時休校によって失われた授業時数をカバーできた学校は2割程度にとどまっていると同時に、2割程度は2週間分以上欠損した状況でした。

 こうした状況から、コロナの影響を受けた世代の子どもたちに対し、国として追加の財政的な支援を行うことが急務です。加えて、「親の収入や価値観」「保護者の関わる時間」「学習習慣」「学校の取り組み」の格差によって、コロナ禍で不利な状況に陥った子どもに対しては特に重点的な支援が必要です。

(朝日新聞記者・岩沢志気、松本千聖、田渕紫織)

AERA 2021年8月2日号