

将棋の棋聖戦五番勝負で藤井聡太棋聖が渡辺明名人に2連勝し、初防衛に王手をかけた。AERA 2021年7月5日号では十七世名人資格者の谷川浩司九段に、藤井の強さや将来について語ってもらった。
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がっくりとした様子を見せる、百戦錬磨の挑戦者。まだあどけなさを残す表情で、静かにたたずむ若き棋聖。終局直前、敗者と勝者のコントラストは残酷なまでに鮮やかだった。
6月18日、淡路島でおこなわれた棋聖戦五番勝負第2局は171手の大熱戦の末、藤井聡太棋聖(18)が渡辺明名人(37)に勝利。藤井が2勝目をあげ、初防衛まであと1勝と迫った。対局が終わったあと、『藤井聡太論 将棋の未来』(講談社)を出版したばかりの谷川浩司九段(59)=十七世名人資格保持者=に感想を尋ねた。
■中盤で惜しみなく使う
「驚異的でしたね」
谷川が改めて驚いたのは「長考派」と言われる藤井の時間の使い方だ。藤井は中盤で惜しみなく時間を使い、終盤に入る頃にはほとんど残っていなかった。谷川は過去にタイトル戦などでトップクラスの棋士たちとしのぎを削ってきた。藤井のようなスタイルの棋士は過去にいたのだろうか。
「しいていえば若い頃の郷田(真隆)さん(九段、50)が近いかもしれません。しかしここまで極端な人はいないでしょう。私は相手と歩調を合わせることはありました。羽生(善治)さん(九段、50)と対局し、相手が使えばこちらも使い、戦いが始まったときにはどちらも時間が残っていない、ということはありました。しかし藤井さんの場合は、相手との時間の差を、それほど考えていないようにも見えます」
堂々とわが道を行く藤井。一方で大戦略家の渡辺は、少し不利な後手番ながらうまい作戦を見せ、勝ちやすい展開に持ち込んだ。
「渡辺さんも途中まではまずまずと思っていたのではないでしょうか。藤井さんのほうがまとめにくい将棋でしたし、時間でも渡辺さんがリードしました」
■金を寄る意表の受け
そろそろ終盤に入ろうかというところで、藤井は金を寄る意表の受けを見せた。持ち時間4時間のうち、残りは藤井7分、渡辺50分。盤上の形勢も時間のペース配分も、渡辺が優位に立ったかに見えたが……。