■所得・貯蓄格差広がる

「件(くだん)の『2千万円問題』は問題意識を喚起する意味ではよかったですが、単純化されたものでした。定年の年齢も段階的に延び、働き続ける人と完全リタイアする人では収支が違います。所得や貯蓄額の格差も目立ちます。金融広報中央委員会の調査では、19年の二人以上世帯の金融資産保有額は平均1139万円ですが、これは『持っている人』が平均を引き上げているためです。実態に近いのは中央値の419万円。積極的な人は運用を始めて着実に増やしていますが、一歩踏み出せない人は増やせず、二極化が顕著。この差はさらに拡大するでしょう」

 ここで、現在の所得と老後の必要資金の関係を調べたデータを紹介。ニッセイ基礎研究所主任研究員の高岡和佳子さんが試算したものだ。

 このデータによれば、年収1200万円以上の世帯が今のままの生活を続けると、65歳から約95歳までで年金とは別に7700万円が必要になる。約30年間の合計なので月額21万円。贅沢な外食や年に数回の海外旅行を楽しめば、夫婦でそこそこ簡単に使える金額だ。

 もちろん、年収1200万円以上は全体から見れば少数。多数派(34%)の年収500万~750万円世帯が現在と同レベルの生活を求めれば3200万円。生活水準1割低下で2100万円が必要になる。まずはこの2100万円を目指して老後マネーを準備するのはどうか。

「資産が枯渇するか否かは、夫婦の死亡年齢の組み合わせでも異なります。妻が専業主婦で、会社員だった夫が早世すると、妻は遺族厚生年金を受給します。遺族厚生年金は老齢厚生年金の75%相当。夫が早世した場合の世帯年収は妻が早世した場合より低くなります」(高岡さん)

(金融ジャーナリスト・大西洋平、編集部・中島晶子)

AERA 2021年7月5日号より抜粋

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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