だが、共感より反発が広がった。「介助してもらったのに感謝が足りない」「事前連絡がない」。人権問題として提起したのに「施し」「思いやり」の話に変換され、議論が交わらなかった。

 そもそも今回の問題点は何か。内閣府障害者政策委員会の委員長で、日本人初の国連障害者権利委員会委員も務めた石川准・静岡県立大学教授は言う。

「障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供では、建設的対話による合意形成のプロセスが大事ですが、JR内で建設的対話に向き合うことが徹底されていなかった可能性があります。無人駅だから、階段しかない駅だから案内できないとしたのであれば問題です」

 16年4月に施行された障害者差別解消法では、国や地方公共団体に対し、障害のある人が社会でバリアーに直面したとき、そのバリアーを取り除くために必要な調整を行う「合理的配慮」の提供を義務付けている。現在、民間事業者は「努力義務」とされているが、今国会に改正案が提出されており、民間事業者も義務化される見通しだ。

 駅の無人化に関する国土交通省の意見交換会のメンバーで、障害者団体「DPI日本会議」事務局長の佐藤聡さん(53)もJRの対応を問題視する。

「階段しか手段がなく、車いすで駅を利用できないようにしているのは事業者側です。その障壁は事業者の責任で取り除かなければなりません。利用を断ってはダメだという考えを、現場の駅員が持つ必要があります」

 JR東日本横浜支社はアエラ本誌の取材に対し、次のように回答した。

「小田原駅では社員を即座に手配することができず、熱海駅からのタクシー利用をご提案しました」「来宮駅では4名の熱海駅社員が降車をお手伝いしたので『乗車拒否』した認識はありません」「明確にご案内できず、合理的配慮がなかったという印象を与えてしまった点については申し訳ない」「事前連絡がない場合も必要な対応を行いますが、通常よりもお時間を頂戴することをご理解いただきたい」

■女性の障害者という複合マイノリティーの苦悩

 約100キロの電動車いすを4人の駅員が運んだことについて「かわいそう」という指摘もある。JR東日本横浜支社によると、社内マニュアルではジョイスティック型電動車いすは通常6~8人で運ぶ規定があるが、乗客が車いすに乗った状態を想定したもので、今回は同行した介助者が抱っこしたため、駅員4人で運んだという。

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