代表的なのが駅の無人化だ。国交省の調べでは19年度に全国で9465ある駅のうち駅員のいない無人駅は4564駅と5割近くあり、約20年で400駅以上も増えた。利用者の少ない地方の駅ばかりでなく、都市部でも一部時間帯で駅員が不在になる駅もある。

■電車で100円のところ福祉タクシーで2500円

 羽富さんも2年前、東京・池袋駅から自宅の最寄りのさいたま市内の駅に向かおうと駅員に申し出たら、「(降車駅の)駅員が休憩時間中なので案内は1時間後になる」と言われた。1日の乗客数は約1万9千人(19年度)の比較的大きな駅での話だ。この件を受け、「どんなに障害が重くても地域で暮らすのがあたりまえ」を掲げ、さいたま市で活動する「虹の会」が日ごろ使う市内の駅を調べると、6駅中4駅で駅員不在の時間があったという。虹の会事務局長の加納友恵さん(45)は言う。

「車いす利用者にだけ、事前連絡をしないと電車に乗れないと課すのは明らかな差別だと思います。今後、コロナによる赤字財政を理由に無人化が正当化され、加速するのではと心配です。経営を優先するのは公共交通機関としての役割を放棄していると思います」

 昨年9月、駅の無人化は移動の自由を侵害しているとして、大分市の吉田春美さん(67)らはJR九州を相手取り大分地裁に提訴した。同社は17年に同市内の8駅の無人化計画を発表し、すでに3駅を無人化。利用の事前連絡について、吉田さんは当日の予約や時間変更はできないと言われ、電車で100円のところ、福祉タクシーで2500円かかったこともあったという。

「片道だけなら簡単に決められますが、往復だとインターネットで検索し、予定をたてて予約しなければならず、先日は予定表をつくるのに2時間もかかった。障害者や高齢者にとっては苦痛で、電車に乗ることを諦めるかもしれません。黙っていたら残る五つの駅まで無人駅にされてしまうと思い、裁判を起こしました」(吉田さん)

 提訴後、ネットなどで「障害者のわがまま」という声が複数上がった。代理人の徳田靖之弁護士は言う。

「利用できていた駅が、事業者側の一方的な都合で利用できなくなるのはおかしいと思いませんか。移動の自由は憲法で保障され、まっとうな問題提起なのに、誹謗中傷が起きる。背景には、障害者は社会に迷惑をかけている存在だ、わきまえろという思いがあるのではないでしょうか」(編集部・深澤友紀)

※AERA 2021年6月7日号より