吉田春美さん(中央)ら車いす利用者は、JR九州に駅無人化反対を求め訴訟を起こした。乗降時にはスロープの設置など駅員の介助が必要で、無人駅の利用には事前予約しなければならない(c)朝日新聞社
吉田春美さん(中央)ら車いす利用者は、JR九州に駅無人化反対を求め訴訟を起こした。乗降時にはスロープの設置など駅員の介助が必要で、無人駅の利用には事前予約しなければならない(c)朝日新聞社
生まれつき骨が折れやすい骨形成不全症で電動車いすを利用する伊是名夏子さん。「声を上げていかなければ変わらない。誰もが生きやすい社会になるために、みんなで一緒に考えていきたい」(写真/小黒冴夏)
生まれつき骨が折れやすい骨形成不全症で電動車いすを利用する伊是名夏子さん。「声を上げていかなければ変わらない。誰もが生きやすい社会になるために、みんなで一緒に考えていきたい」(写真/小黒冴夏)

 電車の乗降に介助が必要な車いすユーザー。階段しかない無人駅を利用するために介助を求めることは「わがまま」なのだろうか。SNSなどで大きな批判があった、障害者が移動の自由の権利を求めることについて考える。AERA 2021年6月7日号の記事を紹介する。

【写真】伊是名夏子さん

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 車いすを利用するコラムニストの伊是名夏子さん(39)がJR東日本のエレベーターのない無人駅で下車したいと申し出た際、駅員から一時、案内できないと言われ、「乗車拒否されました」とブログで問題提起したところ、大きな反響があった。批判が多く、誹謗中傷や差別的な投稿は今も続く。

 この10年、国内で障害者をめぐる環境は大きく変化した。2012年に障害者総合支援法が、13年には障害者差別解消法が成立し、14年には日本も障害者権利条約を批准。東京五輪・パラリンピックに向け、バリアフリーも進められた。「多様性」や「共生社会」の言葉も社会に浸透してきたが、障害のある人が、ない人と同じように駅を利用したいと声を上げただけで、「わがまま」と非難される現実が露呈した。

 電車とホームには隙間や段差があるため、車いす利用者の多くは駅員にスロープを設置してもらい、乗降する。階段があるのにエレベーターやスロープのない駅では、駅員らに上げ下ろしの介助もしてもらうことになる。

■障壁は事業者の責任で取り除かなければならない

 今回、伊是名さんは、JR小田原駅で駅員に「来宮駅(静岡県熱海市)までお願いします」と伝えたところ、「来宮駅は階段しかないのでご案内できません。熱海まででいいですか」と言われた。出発前にネットで駅構内図を見たが、来宮駅が無人駅であることや事前の連絡が必要なことはわからず、1階しかなかったため車いすのまま改札へ行けると思ったという。

 伊是名さんは、障害者差別解消法に基づく合理的配慮として、「駅員を集めて階段の介助をしてほしい」と複数の駅員と約1時間半にわたって交渉したが、「できない」と繰り返され、自己負担でのタクシー利用を勧められた。車いすで利用できるタクシーは台数が限られ、乗れるとも限らないが、仕方なく熱海駅に向かったところ、状況は一変。ホームで駅長ら4人が待ち受け、来宮駅で下車できることになった。

 経緯をブログで発信した理由について伊是名さんは「車いすの人が駅を使うことが想定されていないと感じて、声を上げ、みんなで一緒に考えて、誰もが安心して利用できる公共交通機関になってほしいと思った」と話す。

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共感より広がった反発