ヴァンデ・グローブはフランス人らしい発想というか、とても多様性のあるレースです。男女も年齢も分けずに、最新鋭のヨットも20年前の艇も一緒にレースする。確かに外洋セーリングは経験がものをいう部分も大きくて、今大会最年長のジャン・ルカム選手(フランス)は61歳だった。5大会連続出場のレジェンドで、今回も総合4位という素晴らしい成績でした。それでも、やはりセーラーとして体力と経験のバランスがよく、最も脂がのっているのは30代後半くらいだと思う。若いセーラーと戦うのはキツイですよ。アスリートとしてトレーニングしている分、パワーはそれほど衰えていません。でも、疲れが抜けなくなった。30代のころは1日で抜けていた疲れが2日かかるようになって、3日かかるようになって……。これから3年間はウェートを軽くして、メンテナンスと休養に時間とお金をかけながらゆっくり体幹を鍛え、可動域を広げるトレーニングをしていきます。

■常に好奇心を満たす

 繰り返すけれど僕はヨットが得意じゃないから、速く、センス良く走るのは難しい。一方、他の選手より秀でているのは世界4周した経験と、経験に裏打ちされた修復力です。ガンガン抜いてトップを取る走りはできないけれど、なんとか注意して走りながら、気が付いたら8位に生き残っていたという走りを目指します。

 30年間、僕自身は何も変わっていない。白石は取材のたびにそう話すという。白石康次郎にとってヨットとは。

 ヨットって、変な乗り物です。風が吹かないとぴくりとも動きません。何億円もする最新艇でも、風がなければ走れない。でも、風だけ吹いていても進めないんです。人間の知恵と自然の恵みが合わさったとき、はじめてヨットという遊びが成り立つ。そこがとても魅力的です。そして、流線形でかっこいい。技術的にもまだまだ発展していく。ヨットは常に僕の好奇心を満たしてくれます。

 一方で、僕自身は何も変わっていません。ずっと、子どものころやっていた遊びの延長。戦艦大和のプラモデルをつくっていたのが全長18メートルのヨットになって、「この指とまれ」と仲間を集めて缶蹴りしていたのが、世界一周を目指すヨットチームになった。海にこぎ出すときに感じる胸の高鳴りも、高校生の頃と同じです。(構成/編集部・川口穣)

AERA 2021年5月24日号