ただし、診断は容易ではない。同院では3日間かけて6種類の検査や成育歴の聴き取りなどを行った上で診断している。

「発達障害の傾向がある人は、幼少期からネガティブな体験を重ねている場合が多いのですが、本人はその理由がわからず悩んでいます。検査による客観的なデータを示すことで、『この特性のために、こういうことが苦手なのだ』などと、ある程度の納得感を得られます」

 そして、「詳しい診断結果が出てからが本当のスタート」だと五十嵐医師は話す。

「診断をもとに『日常生活での困りごとは何か』に翻訳しなければ意味がありません。特性は変えられませんが、困りごとは自分なりの『工夫』でカバーできるからです」

■スキルと自信をつける

 リワークプログラムでは13年から、発達障害の傾向がある人向けの専用プログラム「ソーシャル・スキル・リノベーション(SSR)」も行っている。構成は大きく四つ。発達障害について知るための「文献講読」、そこから自分の得手不得手に気づくための「グループワーク」、具体的な対処法などを考え訓練する「コミュニケーション」と「TDL(トレーニング・アット・デイリー・ライフ)」だ。

 例えばコミュニケーションのロールプレイでは、職場のトラブル事例をテーマにみんなの前で演じた後で、役も変えることで「自分が相手にどう映っていたか」の疑似体験を通じて自分の特性の理解を深める。

 TDLは、特にADHD傾向による職場・生活上の課題について、実際の日常生活で対処法を考え実践し、スタッフと一緒にフィードバックしていく。月1回の報告会では、グループに分かれて発表し合う。5月の報告会では「やるべきことを忘れないようスマホのアラーム機能を活用しています」「誤字・脱字は、書式を横書きから縦書きに変えてみると見つかりやすいかも」などのアイデアを共有していた。

 さらに疑似職場でのトレーニングを経て、働き続けるスキルと自信をつけていくという。五十嵐医師が強調する。

「そもそも私たちはみんな、どこかしらに発達障害の特性があります。診断自体が大切なのではなく、自分の得意・不得意の偏りを把握し、どうバランスを取っていくか考え実践していく。これに尽きると思います」

(ライター・豊浦美紀、編集部・澤志保)

AERA 2021年5月24日号