新型コロナウイルスの変異株による感染予防のため、外出を控えるよう呼びかける東京都の車 (c)朝日新聞社
新型コロナウイルスの変異株による感染予防のため、外出を控えるよう呼びかける東京都の車 (c)朝日新聞社

 世界各地でワクチン接種後の感染が報告されている。非常にまれな例ではあるが、ワクチンを打っても気を緩められない。AERA 2021年5月24日号から。

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 新型コロナウイルスの封じ込めの優等生とされてきたシンガポール。昨年秋から帰国者らを除く新規感染者が1日あたり1桁台かゼロだったのが、最近になって感染者が増えている。今年4月下旬には初の病院クラスター(集団感染)が発生した。

 クラスターは国内有数の総合病院、タントクセン病院で起きた。最初に感染がわかったのは46歳のフィリピン人の看護師だった。4月27日、夜勤明けで帰宅した後に咳が出始め、のどや体の節々に痛みを感じた。病院では、新型コロナ感染症が疑われる症状が出た職員は速やかに検査を受けて確認するという取り決めがあった。看護師はすぐに病院に戻って検査を受けたところ、感染が判明した。

 シンガポール保健省や病院は、看護師と接触した患者や職員ら濃厚接触者だけでなく、潜伏期間中に病院を受診した患者ら計約2万8千人を検査した。その結果、5月11日までに43人の感染を確認。うち1人の患者(88)が亡くなった。

 実は看護師は1月26日に1回目、2月18日に2回目のワクチン接種を受けていた。シンガポールで使われているワクチンは、2回目の接種が終わって2週間後ぐらいには効果が出ると考えられている。だが、その看護師だけでなく、感染が判明した43人のうち、病院のほかの職員6人と患者2人も2回目のワクチン接種を終えていた。

 ただし、看護師を含むワクチンを2回接種していた9人は全員、軽症か無症状だった。一方、まだ接種を受けていないか、1回目だけだった34人のうち、6人は酸素投与が必要になり、2人は集中治療室に入った。そして1人は亡くなった。

■ワクチン効かない人

 ガン・キムヨン保健相は5月11日の国会演説で、

「感染リスクが完全に無くなるわけではないが、それでもワクチンには感染を防ぐ大きな効果がある。重症化リスクも減らす。また、他の人への感染も減らすだろうと考えられている。順番がきたらぜひ接種を」

 と国民に訴えた。

 シンガポールでは11日現在、病院関係者のほかにも空港の出入国管理官ら、ワクチン接種を2回終えた56人の感染が確認されている。うち26人は、外国人渡航者や海外から帰国した人だった。

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