PDエアロスペースがANAHDなどの出資を受けて開発中の宇宙機「ペガサス」のイメージ。高度約100キロまでを往復する(写真:PDエアロスペース/小池輝政)
PDエアロスペースがANAHDなどの出資を受けて開発中の宇宙機「ペガサス」のイメージ。高度約100キロまでを往復する(写真:PDエアロスペース/小池輝政)

 ANAホールディングス(HD)が4月1日、「宇宙事業チーム」を発足させた。過去最大の赤字に苦しむ逆境の中、フロンティアに挑む社員の胸中は──。AERA 2021年4月19日号から。

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 昨年9月、ANAHDの片野坂真哉社長とJAXAの大西卓哉宇宙飛行士のオンライン対談がウェブで公開された。片野坂社長が将来の宇宙旅行などへの夢を語る動画の脇には、こんなメッセージがつづられていた。

<「こんな状況」なのに、と言われるかもしれない。だけど、「こんな状況」だからこそと思い、 今の私たちに出来ることを考え、 忘れそうになる希望のある未来への想いを共有したい>

 対談を企画したANAHD宇宙事業チームの松本紋子さん(37)は、同僚に向けたメッセージでもあったと明かす。

「あのメッセージは私個人の思いです。コロナ禍で会社が大変な時期にのんきな夢みたいなことを発信している、と同僚からも批判的に受け取られることは避けたかった」

 そして、こんな思いを込めた。

「航空業界はこの先、もう立ち直れないんじゃないかと社内の雰囲気が沈んでいくのをどうにかして止めたいと思いました。エアライン業務を続けていれば、次のステップとして宇宙という可能性があるんだ、ということを伝えたかった」

■赤字でもあえて挑戦

 ANAHDは2020年4~12月期決算で、3095億円の純損失を出した。この期としては過去最大の赤字だった。

 そんななか、ANAHDは今年4月から、事業推進部に「宇宙事業チーム」を新たに設置した。

 ANAHDは18年に「宇宙事業化プロジェクト」を立ち上げたが、ほぼ兼務社員だけだった。それを専任5人、兼務2人に「格上げ」したのだ。同社の宇宙事業は「宇宙輸送」と「衛星データ活用」の2本柱。複数の案件が「種まき」の段階から、事業化の見極めを図る段階にシフトしたためだという。

 チームの中核となる松本さんは、専任として宇宙事業に携わってきた社内唯一の存在だ。そんな松本さんと宇宙の関わりは、運航支援業務に就いていた際、気象予測の精度が向上すれば航空機燃料を削減できる、と気づいたのがきっかけだ。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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