米国の陰謀論集団「Qアノン」の旗。日本でもSNSで拡散し、コミュニティーができるなど米国だけの現象ではないといわれる (c)朝日新聞社
米国の陰謀論集団「Qアノン」の旗。日本でもSNSで拡散し、コミュニティーができるなど米国だけの現象ではないといわれる (c)朝日新聞社
福井県の斉藤新緑県議会議員が、2月に支援者らに配布した活動報告書。「ワクチンは殺人兵器」などの主張を展開している(撮影/写真部・高橋奈緒)
福井県の斉藤新緑県議会議員が、2月に支援者らに配布した活動報告書。「ワクチンは殺人兵器」などの主張を展開している(撮影/写真部・高橋奈緒)

 ワクチンは殺人兵器。米大統領選は不正。有名若手俳優は自死ではなく他殺──。物事の背景に「闇の組織」がいるという陰謀論。なぜ信じる人がいるのか。 AERA 2021年4月5日号で取り上げた。

【写真】福井県の斉藤新緑県議会議員が、支援者らに配布した活動報告書

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「新型コロナ騒動は、『闇の勢力』が随分前から計画してきたものです」

 この荒唐無稽なトンデモ話をまき散らしているのは、福井県議会の最大会派・県会自民党に所属する斉藤新緑(しんりょく)県議(64)。現在6期目で、自民党福井県連では会長代行を務め、県議会議長も経験した重鎮だ。その議員が、2月22日付発行の自身の活動報告書にこのように書き、新型コロナウイルスワクチンは接種しないよう呼びかけた。

 他にも斉藤氏は、「今回のワクチンは人類初の遺伝子組み換えワクチンで、『殺人兵器』ともいわれています」「ワクチンを打てば、5年以内に死ぬ」などと持論を展開。報告書は約1万5千部発行され、斉藤氏のホームページでも公開されている。県会自民党は「党の方針と異なる」として斉藤氏に厳重注意したというが、本人は「信念に基づいており、撤回するつもりはない」などと話しているという。

■嘘が含むわずかな真実

 秘密結社のような黒幕が世界征服を目論んでいる──。そんな陰謀論が、いま社会に跋扈している。中でも注目を集めたのが、米国の陰謀論集団「Qアノン」だ。2017年、ネットの匿名掲示板に「Q」を名乗る人物が書き込みをしたのが始まりとされる。アノンは、匿名を意味する「anonymous(アノニマス)」に由来する。

 Qアノンはトランプ前大統領が「ディープステート(影の政府)」から世界を守るために闘っていると信じ、米大統領選の投票不正を訴え、信奉者の一部が連邦議会を襲撃した。Qアノンとは何なのか。

 陰謀論と言えば、40年以上にわたり「世界の謎と不思議」に挑み続ける月刊誌「ムー」だ。5代目編集長、三上丈晴氏(52)はQアノンについてこう語る。

「スケールが矮小で、歴史的背景が希薄。Qアノンには陰謀史観に必ず出てくる秘密結社のフリーメーソンやイルミナティという言葉が出てきていない。つまり、Qアノンは陰謀史観にまで昇華されていない」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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