「水際作戦」で追い返された女性(20代)が、相談員とやりとりをした会話の録音を文字にした資料。相談員が虚偽の説明を繰り返していた(撮影/写真部・高橋奈緒)
「水際作戦」で追い返された女性(20代)が、相談員とやりとりをした会話の録音を文字にした資料。相談員が虚偽の説明を繰り返していた(撮影/写真部・高橋奈緒)
女性の支援団体からの抗議文を受け取る、神奈川区生活支援課の担当者(左)。同課では今後、対応の改善や職員の研修に取り組むという(撮影/編集部・野村昌二)
女性の支援団体からの抗議文を受け取る、神奈川区生活支援課の担当者(左)。同課では今後、対応の改善や職員の研修に取り組むという(撮影/編集部・野村昌二)

 生活保護の申請に来た人を、窓口の職員が虚偽の説明を並べて追い返してしまう。専門家らが「水際作戦」と呼ぶ信じがたい実態を、ある女性が録音していた。AERA 2021年3月29日号から。

【写真】女性の支援団体からの抗議文を受け取る、神奈川区生活支援課の担当者

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 生活保護の申請に来た人を、ウソの説明で門前払いにする。各地の行政窓口で、そんな事例が頻発している。コロナ禍で申請が増え、経験の少ない職員らの負担が増していることも一因だが、日本弁護士連合会などはそんなやり口を「水際作戦」と呼んで問題視してきた。
 
■「申請の意思なし」記録

 2月下旬、20代の女性は、横浜市神奈川区の生活支援課を訪れた。住まいがなくネットカフェや公園を転々としていた女性は、自作した申請書一式を持って生活保護の申請に来たのだった。女性は念のため、相談員とのやりとりをスマートフォンに録音していた。そこには、虚偽の説明を繰り返す相談員の会話が記録されていた。

 仕事も住所もないと話す女性に相談員が言う。

「おうちのない状態だと、ホームレスの方の施設があって、そちらに入ってもらう」

 生活保護法では本人の意思に反して施設に入所させることを禁じている。だが相談員の説明は、施設入所が生活保護の前提であるかのようなものだった。

 ほかにもこの相談員は、簡易宿泊所等に住民票を設定しないと生活保護の申請ができないと説明するなど虚偽説明を繰り返した。女性は申請を断念。相談員は、記録票に「女性に申請の意思なし」と記したという。

 女性を支援する「つくろい東京ファンド」代表の稲葉剛さん(52)は、神奈川区の対応を厳しく批判する。

「厚生労働省は各福祉事務所に対し再三再四、『保護の開始の申請等の意思が示された者に対しては、その申請権を侵害しないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきである』と通知しています。今回の対応は、生活保護の申請権を侵害する悪質な水際作戦に他なりません」

 生活支援課は女性に対し全面的に過ちを認めて謝罪したが、担当課長は取材に「原因は検証中。現時点では何がというお答えはできない」と述べた。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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