女性は同課の対応について「謝ってはくれたみたいだけど、前置きの理由や言い訳がすごく多いと感じた」と話している。

■人員減で「素人」ばかり

 前出の稲葉さんは、神奈川区だけの問題ではないと指摘する。

「コロナ禍で生活保護の申請が増えると、それに比例し首都圏各地の自治体で『水際作戦』で申請者を追い返そうという動きが強まります」

 背景には何があるのか。

 都内の自治体で生活保護を15年以上担当していた、生活保護問題対策全国会議事務局次長の田川英信さん(66)は、福祉事務所が機能しなくなっていることが大きいと指摘する。

「自治体の職員は国の方針でどんどん減らされました。しかも、新人や若手が多く配置され、いわば『素人』ばかりの福祉事務所も少なくありません。研修や勉強をする余裕がなく、よくわかっていない先輩が後輩を指導するので、誤った認識や対応が受け継がれているのではないでしょうか」

 申請を断られた人は、所持金がなければ野宿するしかない。朝晩まだ冷え込むこの時期の野宿は、命の危険にもかかわる。

 同ファンドの小林美穂子さんは、「水際作戦」がどのような意味を持つか、自治体はもっと考えてほしいと訴える。

「生活保護は最後の砦です。福祉事務所に行けば何とかしてくれると思って行くわけです。そこで追い返すということは、『福祉は助けてくれないんだ』という誤ったメッセージが伝わってしまいます。さらに、特に若い女性が追い返されて路上にいると、身の危険にさらされることも考えられます。それが想像できないのでしょうか」

(編集部・野村昌二)

AERA 2021年3月29日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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