秋田善祺・アキタ代表(左)から要望書を受け取る吉川貴盛・農水相(中央)。右は西川公也・内閣官房参与(肩書はいずれも当時)/2018年11月12日、農水省・大臣室(西川氏のブログから)
秋田善祺・アキタ代表(左)から要望書を受け取る吉川貴盛・農水相(中央)。右は西川公也・内閣官房参与(肩書はいずれも当時)/2018年11月12日、農水省・大臣室(西川氏のブログから)
3例目の鳥インフルエンザウイルス感染が確認され、殺処分が進められる養鶏場/2020年11月11日、香川県三豊市
3例目の鳥インフルエンザウイルス感染が確認され、殺処分が進められる養鶏場/2020年11月11日、香川県三豊市
AERA 2021年3月8日号より
AERA 2021年3月8日号より

 吉川貴盛元農林水産相が鶏卵生産大手から500万円を受け取ったとされる汚職事件。背景には鶏卵業界の「焦り」と、農家の減少による地位低下に苦悩する農水省と農水族の「癒着」があった。AERA 2021年3月8日号から。

【写真】3例目の鳥インフルエンザウイルス感染が確認され、殺処分が進められる養鶏場

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「農業自体が衰退していて、農家戸数も、農業生産額も減っています。農林水産省も、昔のように黙っていても財務省が予算を付けてくれる状況ではなくなったんですね。農水族にしがみついて、その力を借りて予算を獲得せざるを得なくなり、今回の事件が起こったのでしょう」

 元農水官僚で、現在はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁さん(66)は、アキタフーズ事件の背景の一つをこう解説する。秋田善祺前代表=贈賄罪で在宅起訴=は吉川貴盛元農水相=収賄罪で在宅起訴=に、アニマルウェルフェア(動物福祉=AW)の国際基準案への反対や、卵の生産調整制度(鶏卵生産者経営安定対策事業)の拡充を要望したとされ、いずれも実現している。それにしても、なぜ鶏卵なのか。

■派手でも政治力乏しく

「農業の中で、規模拡大が割と順調に進んだ畜産だけは、生産現場が比較的元気です。そのため、畜産業を支持母体とする政治家が、農水族の中でも重きを占めるようになっていきました」(山下さん)

 鶏卵の産出額は4848億円(2018年、農水省調べ)で、これは農業産出額の5.4パーセントに過ぎない。山下さんは1990年前後に農水省畜産局(現・畜産部)に所属したが、当時から「畜産部の中での鶏卵の重要度はそんなに高くなかった。酪農、肉用牛、ブタと続いてその下に鶏卵やブロイラー(肉鶏)がくるイメージ」という。これには理由がある。鶏卵は産出額が小さい上に、事業者数が他と比べて圧倒的に少ないのだ。

 62年に380万戸以上だった事業者は、2015年には4181まで減った(畜産統計及び農林業センサスから)。実に約900分の1である。反対に、1戸当たりの羽数の平均は6万6900羽に拡大。しかも10万羽以上を飼う事業者は全体の17.1パーセントなのに、そうした事業者が飼育する羽数は76パーセントを占める。大規模化が進む畜産の中でも、鶏卵は特に巨大化し、工場と見まごうような養鶏場も珍しくない。

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