■鳥インフルの被害拡大

 一方、卵価をみると、1955年にキロ当たり205円だったが、2017年も207円と、ほとんど変わっていない。

「物価の変動を勘案して実質化すると、今の卵価は70年のおよそ半額に過ぎません。鶏卵の原価の大半を占める飼料とニワトリの償却費から換算しても、とんでもなく安いのです。大手は、規模で中小を凌駕(りょうが)して、コストを下げるわけですが、資金を借りて規模を拡大し、その返済のために売り上げを大きくしようと、さらに規模を拡大する……という行き過ぎた過当競争にあります」(大森さん)

 規模拡大の弊害の一つがこの冬、意外な形であらわになった。過去最大の被害を更新している高病原性鳥インフルエンザだ。2月15日時点で、17県で50事例が発生し、975万羽が殺処分になった。1羽でも発病すると、農場内のすべてのニワトリを殺処分するため、大規模な養鶏場ほど被害が大きくなる。1農場当たりの殺処分数は増える傾向にあり、116万羽を処分した養鶏場もあった。

「卵を工業製品と同じように考えるべきではなく、動物が産む以上、動物個体の病気もあるということを前提に、安心、安全で持続可能な生産を考えなければ」

 大森さんはこう警鐘を鳴らす。安価で栄養価が高い鶏卵を消費者は手頃な食品として歓迎しているが、その裏側にある鶏卵業者を取り囲む状況は厳しいのが現実だ。(ジャーナリスト・山口亮子)

AERA 2021年3月8日号