そのような鶏卵業界の中でも、アキタフーズは最大手のイセ食品(埼玉県鴻巣市)と並び、業界の2大巨頭だ。グループで700万羽を飼育し、売り上げは700億円近い。ちなみに、イセ食品代表は、ピカソをはじめとする世界の美術品の収集で知られる。アキタフーズは日本最大級の高級クルーザーを所有し、これで、吉川氏や西川公也元農水相、元農水次官らを接待したとされる。鶏卵大手は、他の農業分野に比べ、振る舞いが極めて派手だと見られている。

 業界にも泣きどころはあった。政治力のなさである。それを補おうと今回の汚職事件につながったと、山下さんは見る。

「コメとか酪農、肉用牛とかブタだったら、ある意味、オールジャパンで政策を決める仕組みになっています。JAグループの全中などが、自民党の農林部会や農水省と掛け合って要求を通すスタイルが多く、今回の事件のように特定の政治家に金を渡せばいいという話じゃない。政治家に自分たちの要求を代弁してもらった場合、その見返りは何かというと、選挙の票です」(山下さん)

■自社ファーストの歴史

 しかし、事業者数の少ない鶏卵業界が北海道2区選出の吉川氏に、票で恩を返すのは現実的ではない。山下さんは「票を出すのが無理だから、お金を出すしかないという構図だと思います」と言う。

 ある鶏卵業者は「特に大手が協調せず、業界としてまとまらない」とこぼす。これは、大規模業者が業界全体の利益より「自社ファースト」で突き進んできた歴史が影響している。鶏卵業界では74年から、国による生産調整が本格的に始まった。60年代にケージを使った多数羽の飼育が可能になり、養鶏農家の規模拡大や、企業化した鶏卵業者の参入で、供給過剰に陥ったためだ。

 中小業者は生産調整に協力したのに、規模拡大に意欲を見せる業者は、羽数を増やすところが少なくなかった。その結果、数十万、数百万羽を飼育する大規模業者が出現し、中小はコスト面で太刀打ちできなくなり、廃業が続いている。熾烈(しれつ)な競争の結果、規模拡大を続けて巨大化した大規模業者と、安い卵価にあえぐ中小業者の構図ができた。

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