ディケンズの原作の設定は産業革命時代ヴィクトリア朝19世紀のイギリス。上流階級が富を誇示する重厚な様式の建築や装飾が好まれ、他方で貧困層が激増した。そのせいで、この時代を描く映画やドラマは暗い色調が好まれてきたのだが、本作は映像もカラフルで鮮やかだ。

「壮大な海岸や田舎の景色、初めて目にしたロンドンなど、すべてのシーンが鮮やかなのは、デイヴィッドの心の期待が表れているからだよ」

 そのデイヴィッドを演じるのは、インド系のデヴ・パテル(30)。他にもアフリカ系やアジア系などのキャストを抜擢、人種の点でもカラフルだ。

「現代の環境の中でこの映画を観てほしかった。博物館の展示や長年タンスの中にしまい込んでいた物を見るような感覚は避けたかったんだ。時代設定や原作の意図を変えることなく現代的にしたいと考えた時、主人公にはデヴ以外浮かばなかった。コメディーが得意でちょっと引っ込み思案な雰囲気があり、デイヴィッドにふさわしい魅力とカリスマ性があるから。第2候補は考えもしなかったよ」

◎「どん底作家の人生に幸あれ!」
波瀾万丈なデイヴィッドの人生に巻き起こる“奇跡”とは──? 1月22日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD「ディケンジアン」

 BBCのテレビドラマ「ディケンジアン」は、近代英国文学の金字塔とされるチャールズ・ディケンズの名作を一つにまとめた意欲作だ。2015年12月から16年2月にかけて放送された。

クリスマス・キャロル』のスクルージやタイニー・ティム、『オリバー・ツイスト』のナンシーやフェイギン、『大いなる遺産』のミス・ハヴィシャムやアーサーなどのおなじみの面々が一つの世界で隣り合わせに生きているという設定で、いくつかの物語が並行して展開する。単独でも分厚い原作の数々、人気キャラクターと物語のエッセンスを抽出し一本にまとめるという脚色は、気の遠くなる作業ではなかったか。脱帽だ。

 名作とされながらも、英国偉人でさえ完読している人は少ないディケンズ文学の醍醐味を、これ一本で楽しみながら理解できる。まさにベストコレクション。イギリスの帝国主義のもたらした貧富の差や、格差社会でひしめき合いながら生きる人々の姿を、クライムサスペンスとメロドラマが絡み合う形でエンターテイニングに仕上げた。セットや衣装も素晴らしく、役にぴったりの多彩なキャスティングも見事。

◎「ディケンジアン」
発売元:アイ・ヴィー・シー
価格9800円+税/DVD発売中
(ライター・高野裕子)

AERA 2021年1月18日号