北朝鮮が東京五輪を外交戦の舞台に選ぶのなら、文在寅政権もこれに対応するため、日本との関係改善を目指すことになるだろう。11月に相次いで来日した朴智元(パクチウォン)韓国国家情報院長や金振杓(キムジンピョ)「韓日議員連盟会長らは異口同音に、東京五輪を外交に活用するよう菅義偉首相に求めている。

■韓国でイセマンが流行

 そして、もう一つの判断材料が、韓国世論の行方だ。

 韓国の世論調査会社、リアルメーターが12月21日に発表した文大統領の支持率は39.5%。前週よりもやや改善したが、政権と検察との対立激化によって支持率は下降気味だ。17年の大統領選での文氏の得票率41.08%を割り込んでおり、「コンクリート支持層が徐々に削られている」(韓国政界関係筋)状況という。

「イセマン(イボン・セン・マンヘッタ=人生終わった)」。韓国の若者たちを中心に、最近はやっている言葉だ。雇用創出が、文在寅政権の内政最大のキャッチフレーズだったが、新型コロナウイルスの感染拡大もあって、若者の就職難は解決していない。

 不動産価格も高騰している。韓国不動産院が12月18日に発表した資料によれば、文政権発足後の3年5カ月間で、ソウルのアパート(マンション)取引価格が約63%上昇したという。持ち家も買えず、教育費の高騰から子どもも望めず、独身のまま希望もなく年を重ねる人も増えているという。リアルメーターの調査でも、20代の文大統領支持率は平均を下回る37.8%だった。韓国でも新型コロナの感染拡大で政府への不信感が広がりつつある。

 そして、文政権の支持者は元々、歴史認識問題の影響から日本に厳しい姿勢を望む傾向がある。徴用工問題で政治決断をすれば、支持率の低下を招くことは間違いない。21年春には、次期大統領選の行方を占うソウルと釜山の両市長選も控えている。政治決断の時までに支持率の「貯金」が残っているかどうか微妙な情勢だ。

 バイデン次期大統領はトランプ政権が日韓関係の悪化を放置したと批判しており、政権発足後に日韓に歩み寄りを求めるだろう。だが、文政権が自分たちの政治生命を犠牲にしてまで、米国の頼みを聞くとも思えない。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

AERA 2021年1月11日号より抜粋