菅政権発足以降では、確認されただけでも、朴秘書官が10月11日と11月19日に訪日して滝崎局長らと極秘で会談、10月28日には訪韓した滝崎局長とソウルで面会している。一連の接触を経て、日韓は妥協点を見いだしたわけではないが、外務局長級協議よりは、いくらか突っ込んだ意見交換ができているという。文政権のこうした取り組みも「日韓関係を破壊した政権」として後世に名を残したくない考えあってのことだろう。

■五輪外交なら歩み寄る

 では、文政権は決断を下すのか、下さないのか。それは北朝鮮と韓国国民の判断にかかっている。

 まず、北朝鮮だ。21年も文政権の最重要政策課題は南北関係だ。「任期内にもう一度、南北首脳会談を実現しよう」が文政権の合言葉だ。韓国が20年秋から日本政府への対話攻勢を強めた背景には、21年の東京夏季五輪・パラリンピックを契機に南北対話を実現して、首脳会談への足がかりにしたいという思惑がある。五輪外交の可能性が高まれば、韓国は主催国である日本との関係をおろそかにはできなくなる。

 20年末の時点で、北朝鮮は日韓両国に冷淡な態度を示している。朝鮮中央通信などの北朝鮮メディアは最近、防衛政策や歴史認識問題などを取り上げ、週1回ほどのペースで日本批判を繰り広げている。韓国に対しても、20年6月に南北共同連絡事務所を爆破して以降、9月に起きた韓国公務員殺害事件を巡る遺憾表明以外は、ずっと韓国を無視し続けている。

 米朝関係筋は「北朝鮮はトランプ政権の継続を望んでいたし、そうなると思っていた。バイデン次期政権の出方がわからないので、対米政策を決められない。必然的に日韓への対応も決まらないのではないか」と語る。

 バイデン次期米大統領は北朝鮮を「Thug(悪党)」と呼んだ。一方、次期国務長官に指名されたブリンケン元国務副長官は北朝鮮との間で核軍縮交渉を行う考えも示唆している。北朝鮮としては、バイデン氏は不愉快な存在だが、事実上の核保有国への道が開かれるのなら、喜んで米国と交渉に応じるだろう。そうなれば、制裁の緩和にも道が開ける。北朝鮮としても、日本や韓国と交渉する意欲が湧いてこようというものだ。

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