首脳会談でひじを合わせる菅義偉首相(右)とオーストラリアのスコット・モリソン首相/11月17日、首相官邸 (c)朝日新聞社
首脳会談でひじを合わせる菅義偉首相(右)とオーストラリアのスコット・モリソン首相/11月17日、首相官邸 (c)朝日新聞社
AERA 2020年12月28日-2021年1月4日号より
AERA 2020年12月28日-2021年1月4日号より

 日本と豪州が、他国の攻撃から相手国の艦船などを守るといった内容で合意した。事実上の同盟関係と言えるが、対中紛争のリスクなどの議論は置き去りだ。AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号では、そのリスクについて取り上げた。

【菅首相・モリソン首相の合意内容はこちら】

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 安倍晋三前首相は中国との友好関係を望む一方で「自由で開かれたインド・太平洋」を旗印とし、対中包囲網に事実上参加した。

 海上自衛隊は07年から米国、インドの海軍共同演習「マラバール」に参加したほか、米、豪海軍との演習も行ってきた。今年11月、インド東方のベンガル湾とアラビア海で行われた「マラバール2020」には豪州海軍が参加。初めて米印日豪4カ国の合同演習となり、中国に対抗する「アジア版NATO」結成の様相を示した。

 この4カ国は、中国が「一帯一路」の要所としてスリランカのハンバントタ港、パキスタンのグワーダル港の拡張、整備を援助しているのは軍事的拠点にするためと警戒している。

 だが米海軍は中国海軍に対し質、数ともに圧倒的優勢なため、もし米中で武力紛争が起きれば、遠隔地の港にいる中国軍艦は出港すれば撃沈される。日露戦争で旅順港を基地としていたロシア太平洋艦隊が「引き籠もり状態」になったのと同様だ。従って、中国は軍事よりは経済上の目的で港の建設を援助していると見る方が自然だろう。

 もし米中関係がさらに険悪化すれば、米海軍は海上自衛隊、豪州海軍を伴って中国沿岸の封鎖をすることは可能だ。だが中国の食料自給率はほぼ100%で輸入しているのは大豆だけ。石炭が豊富だからエネルギーの自給率も80%に近く、ロシアからのパイプラインもあり、中国が封鎖に屈する公算は低い。

 核を使うと共倒れになるから通常弾頭のミサイルや、航空攻撃で都市や軍事拠点の破壊はできても、支配するには地上部隊による占領が必要だ。

 黄海最奥部の天津付近から北京へは約180キロ。大損害を覚悟すれば米軍が北京に到達することは可能だろう。だが日中戦争では、首都南京を失った蒋介石は重慶に籠って抗戦を続け、日本軍は最大140万人を投入したが点と線しか確保できなかった。米軍が9年間苦戦して敗退したベトナムは、南北合わせて面積は中国の28分の1、人口は15分の1だった。

 米中が戦争となれば日本は輸出の19.1%(香港を合わせると約24%)を占める中国市場を失い、致命的打撃となる。さらに中国が米軍の攻撃に対抗し、その拠点である在日米軍、自衛隊の基地や都市をミサイルで攻撃してくることも当然あり得る。

 日本の安全保障にとり、米中の対立を激化させず、戦争を阻止することは必須だ。オーストラリアと同盟して中国包囲網に加わり、米国の背中を押してドロ沼に落とすようなことは、菅氏が討論会で言った通り「戦略的に正しくない」だろう。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

※AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号より抜粋