だが会話の途中、突如通話は切れてしまった。回線の不調か、女子生徒が自ら切ったのかはわからない。彼女のその後を知るすべもない。

「今でも思い出します。通話が切れてしまうとこちらからはどうすることもできません。なんとか生きる希望を見つけていてほしい……」

 かかってきた電話は、悩む誰かが社会とつながる1本の細い糸。その糸を途切れさせぬよう、慎重に、懸命に手繰り寄せる。その糸が切れてしまったかもしれない体験は、相談員の心にも重くのしかかる。

■相談内容が社会を映す

 一方、細い糸がしっかりとつながったことを実感する場面も多いという。

 ある年の冬、若いシングルマザーから電話を受けた。生活が苦しい。親とは疎遠で頼ることができず、仕事も見つからない。ハローワークに通い、履歴書を何通も出したが採用にはいたらない。もう、死んでしまったほうが楽なんじゃないか──。

「本当に頑張っていますね。そんなつらい状況でも逃げずに娘さんのことを一番に考えて、すごく頑張っていると思います」

 そう声をかけると、電話の先で彼女は泣きだしたという。

「そんなこと、言われたことがない。私は頑張れていない、ダメなんだと思っていた……」

 結果ではなくプロセスを承認する。言葉にするとたったそれだけのことでも、希望になると実感した。

「もちろん、その後彼女がどうなったかはわかりません。でも、そのときはひとまず生きる意欲を持ってくれたと思う。そんな実感がやりがいです」

(編集部・川口穣)

AERA 2020年12月14日号より抜粋

著者プロフィールを見る
川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

川口穣の記事一覧はこちら