鉄道の踏切脇に設置された「いのちの電話」の看板。相談員と話すなかで生きる希望を取り戻す人も多い(撮影/編集部・川口穣)
鉄道の踏切脇に設置された「いのちの電話」の看板。相談員と話すなかで生きる希望を取り戻す人も多い(撮影/編集部・川口穣)

 つらい。死にたい。そんな人の思いを受け止める最後の砦が、「いのちの電話」だ。相談員は長い研修と試験を突破せねばならず、しかも全くの無報酬という。AERA 2020年12月14日号では相談員らを取材した。

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 孤独、人間関係の悩み、病や生活苦、そして「死にたい」という声。数は多くないが、今まさに手首を切った、屋上のフェンスに足をかけているといった電話がくることもある。電話相談窓口「いのちの電話」は、そんな声に向き合い続けてきた。去年1年間で受けた電話相談は、62万件にのぼる。

 今年はコロナ禍の影響で、一時休止を余儀なくされた窓口があった。相談員の減少や高齢化も進んでいる。だが、10月の自殺者数が前年同月比で39.9%上昇するなど、その必要性はこれまでになく高まっている。

 いのちの電話は、「日本いのちの電話連盟」に加盟する43都道府県53カ所の電話相談センターの総称だ。全国の相談員は合計約6千人。みな無償のボランティアで、センターごとに多少の違いはあるが、1年半~2年にわたる研修と試験を突破して相談員になる。

 研修費用も、相談場所への交通費も、すべて持ち出し。それでも、センターによっては24時間365日態勢で、名も知らぬ誰かからの電話を受ける。

■つなぎ直せない細い糸

 30代の女性相談員が取材に応じてくれた。相談員になって約5年。月に2回、深夜帯も含めて電話を受けている。電話をかけてくる人には、人間関係が希薄で深い孤独を感じている人が多いという。

「相談できる人が誰もおらず、この電話だけが社会とつながる細い細い糸という人が大勢います。私たちは話を聞くだけで具体的な問題解決はできないけれど、話を聞いてもらえる、認めてもらえることが必要な人がいる。そんな人と社会とのつながりを切らないために、なくてはならない活動だと思っています」

 忘れられない電話がある。

「私、死にたい……」

 ほとんど聞き取れないかすれた声でその電話がかかってきたのは、深夜12時を回ったころだった。かけてきたのは、高校1年生の女子生徒。数年前に事故に遭い、全身に強いマヒがある。学校にはほとんど通えず、今の生活にも、将来にも絶望しているという。懸命にその声を受け止めた。否定せず、苦労と頑張りをねぎらう。それまでを肯定し、少しだけ別の視点を加えられるように言葉を絞る。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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