「逆に、金融が元に戻れば実体経済はそれほど傷んでいなかったのですぐに回復させることができたのです。コロナの場合は実体経済から傷んで、いよいよこれから金融経済にどう波及するかという状況ですから、状況ははるかに厳しい。実体経済から崩壊しているとき、中央銀行が何をしても効果は限られてきます」(藤氏)

 こうした状況の中で政府が推し進めようとしているのが、冒頭で触れた菅首相の所信表明のような“改革”だ。

「菅政権で進めようとしている競争政策や構造改革は、生産性や競争力を上げる議論で、短期的にはデフレ政策です。この20~30年間で需要は低迷し続けて今後も期待できなくなった今、こうした議論で雇用が伸びる要素は少ない」(藤氏)

 どれほどの人たちの雇用に影響する可能性があるのか。野村総合研究所の梅屋真一郎氏が、一つの目安を示している。

 梅屋氏は、コロナによって大きな影響を受ける業種として宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業の4業種を挙げて動向を注視している。

 現状では政府系金融機関による融資などで支えられているが、人との接触を7割減らすような行動様式が続いた場合、52万事業者は2年以内に企業の稼ぐ力だけでは債務返済ができなくなる水準に陥る可能性があると、梅屋氏は指摘している。

「この方々の雇用に悪影響が生じる可能性があるわけですが、中小企業の全従業員数から単純に計算すれば、その数は320万人に上ります」(編集部・小田健司)

AERA 2020年11月30日号より抜粋