佐藤:でも信仰は、即行為になる。

澤田:はい。生活に結び付いている。

佐藤:宗教というのはこの世の現実の問題を解決するもので、それを解決できない宗教はあの世の問題も解決できないんだっていう。これは本当にプロテスタンティズムに似てるんですよね。

澤田:でもこの本は、信仰的なことより、それこそ徹底的にテキストで、池田大作氏という個人の人生から読み解いていらっしゃる。日本人は、宗教というと、まずその信仰の内容だったり教義だったりに触れねばいけないっていう、何か一種の思い込みのようなことがあるのかなと感じました。

佐藤:教義はあとからついてくるものですからね。

澤田:キリスト教に関しても、キリスト教史が今のヨーロッパの世界史やアメリカの成立といったことと深く関わるわけで、それをしっかりと見ることと同義だと思うんですけど、なぜか我々は、宗教を見ようとするといきなり教義に飛ぶんですよね。

佐藤:アメリカのトランプ大統領を支持している宗教右派の言ってるところのキリスト教と、例えばドイツのメルケル首相の出してきているドイツ福音主義教会連盟のキリスト教と、あるいは南米のほうの解放の神学のキリスト教と、これらを同じキリスト教というアンブレラでくくれるわけじゃない。歴史の現実の流れの中で生まれてくる、それが宗教の力であり、良い面も悪い面もあるということなんです。

澤田:そういう意味では、この本は宗教のお話ではあるんですけど、日本の近代史でもあると思うんです。

佐藤:確かにその面はありますよね。だからこの本も、池田大作氏という人を通じた、戦後から令和に至るまでの「時代」を描いていると言えるでしょう。

(構成/編集部・木村恵子)

佐藤優(さとう・まさる)/作家・元外務省主任分析官。『創価学会と平和主義』『危機の正体』『ウイルスと内向の時代』『世界宗教の条件とは何か』など著書多数。2020年の菊池寛賞を受賞。

澤田瞳子(さわだ・とうこ)/作家。2010年、『孤鷹の天』でデビュー。『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞受賞。『若冲』『火定』『落花』『能楽ものがたり 稚児桜』で4度の直木賞候補に。

AERA 2020年11月16日号より抜粋