息子はいま小学5年生。食器の片付けや、洗濯物の取り込みを頼むことも多いが、夫は「男の子なんだから、そんなにさせなくても」と不満げだ。夫には、やんわりと「お手伝いに男女は関係ない」と伝えようとするが、すぐに「文句を言った」と喧嘩腰になってくる。

 学校での刷り込みも強力だ。職業について学ぶ社会科の授業参観では、副教材の写真や先生が作った文章はすべて、消防士や会社員は男性の仕事、看護師、保育士は女性の仕事として描かれていた。目が点になった。

「みんな無意識だし、悪気はないんでしょうが、それだけに根深いものがあります」(女性)

 たとえ同世代、同性でも、ジェンダー観は育った環境などで大きく異なるから厄介だ。

 1歳8カ月の男の子を育てる女性(39)が気になるのは友人のSNSだ。「娘の幼稚園の発表会」の投稿では、女子はAKB48のフリフリ衣装、男子はドラマ「今日から俺は!!」の学ラン姿で踊っていた。

「単に可愛いからと投稿したのでしょうが、私は『4、5歳の頃からこんなことをさせられるの』と怖くなりました」

■「らしさ」先天的でない

 夫は家事を積極的にこなし、ジェンダー観もフラットだ。だが彼が毎回録画して見るテレビ番組は、女性芸人を「ブス」や「未婚」でイジるのが定番。女性はイラッとするが、疲れている夫のつかの間の楽しみだからと、いまは目を瞑(つぶ)ることにしている。ただ、将来息子が一緒に見て笑っていたら、「絶対、一言言うと思います」。

 従来、男は「強く、積極的、理性的」などという「男らしさ」を、女は「優しく、気配りができ、受け身、感情的」などの「女らしさ」を備えているとされてきた。だが、遺伝や性分化について科学的な研究や、文化や歴史的観点からの知見が蓄積される中、「らしさ」は先天的なものではなく、男性中心の社会構造を維持するため制度的・文化的に規定された規範や期待にすぎないことがわかってきた。「らしさ」に基づく差別や不平等をなくそうという「ジェンダー平等」は持続可能な開発目標(SDGs)にも盛り込まれた。

 周囲から意識的・無意識的に押し付けられる「らしさ」が、子どもに「抑圧」として働くこともある。

 千葉県の男性(28)は小学生の頃、運動が得意でなく、笑いで注目を集めようとしていたことを父親に「情けない」となじられた。男らしさ=スポーツと信じる父に柔道を強要されたのもつらい思い出だ。

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