「現状は事前にニーズを把握するシステムが欠如しています。事後でもニーズを聞いてから物資を送るとタイムラグがあって、到着するころには環境が変わっていることもあります」

 事後にニーズを把握し、リアルタイムで必要な物資を提供することすら難しいと言われるが、「事前に」とは、具体的にどのような準備をするのか。山口さんが続ける。

「トイレは1階にあるか、階段の上り下りが必要か、といった細かい話から、どんな仕組みで避難所を提供するかといった準備状況を審査することができます。市町村の人口動態から備蓄に必要なものを予測して保管するなど、データに基づいた物資の備蓄もできるし、発災後も避難所にいる人たちの属性から必要な避難物資を予測することができます。どんな人がいるのかを把握して、モデル化された必要な物資をはじき出すのです」

 この取り組みは9月以降、同大学の青木志保子主任研究員を中心に国内の複数の自治体の協力を得て、実験的にアセスメント(診断)を進めている。

「『みんな大変なんだから仕方ない』ではなく、『もっとアップデートできるよね』と社会全体がマインドを変えていくべきです」(山口さん)

 生活基盤が失われ命さえ危うくなる災害時でさえ、自助や共助に頼らざるを得ない現状。公助は後回しでいいのだろうか。(編集部・小田健司)

AERA 2020年10月5日号より抜粋