右は1995年に起きた阪神・淡路大震災後の兵庫県芦屋市の避難所、左は2016年の熊本地震後の熊本県益城町の避難所。いずれも発災後約2週間が経過しているが、避難者が密集して雑魚寝する状況は同じだ (c)朝日新聞社
右は1995年に起きた阪神・淡路大震災後の兵庫県芦屋市の避難所、左は2016年の熊本地震後の熊本県益城町の避難所。いずれも発災後約2週間が経過しているが、避難者が密集して雑魚寝する状況は同じだ (c)朝日新聞社

 災害大国・日本が抱える差し迫った課題の一つが、災害時の避難所の環境改善だ。災害の多いイタリアでは災害専門の省があり、避難所にはベッドや食堂も備える。翻って日本では、パンやおにぎりの食事が多く、パーティションの中に閉じこもる生活で健康被害のリスクさえある。AERA 2020年10月5日号では、そうした日本の避難所環境の向上を目指す人々を取材した。

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 東日本大震災をきっかけに、避難所への段ボールベッドの導入を進めている大阪府の段ボール製造会社・Jパックス社長の水谷嘉浩さん(49)も、避難所の環境改善を目指す一人だ。

 水谷さんは東日本大震災後、避難所で低体温症で死亡する人がいることを知った。避難所は安全な場所だと思っていたが、実際はそうではなかった。「段ボールでベッドを作って寒さをしのげないか」と考えた。

 4トントラックに200人分近い段ボールベッドを積んで、毎週のように東北へ通った。その後の9年半も土砂災害や水害などが起きるたびに被災地へ足を運んだ。簡易ベッドについては「少しずつ変わってきている」と水谷さんは感じている。内閣府が16年4月に公表した避難所運営ガイドラインでは、避難者向けに「簡易ベッドの確保を目指す」とも明記した。

 ただ、避難所運営全般について内閣府の担当者は取材に「自治体には環境の改善を促している」と話すだけだった。一般社団法人避難所・避難生活学会理事で、新潟大特任教授の榛沢和彦さん(心臓血管外科)は、被災者が避難所で可能な限り元の生活を営むために、(1)災害専門の省庁を設ける(2)国の予算で備蓄を充実させて避難所に供給できるようにする(3)職能ボランティア団体が活躍できる制度を整える、の三つが必要だと訴えるが、今はまだ理想からはほど遠い。

■ITでニーズ事前把握

 グーグルなどと協力して災害時の被災者支援の研究に取り組んだ国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一さんは、長年変わらない避難所の状況の改善のために、IT(情報技術)が使えると考える。

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