■停止されたアカウント

では、当のTikTok側は一連の動きをどう見ているのか。バイトダンス日本法人の広報担当者は本誌の取材に対し、8月中旬、騒動について文書でこう回答した。

「すでに透明性レポートで明らかにしているとおり、中国政府にユーザーデータを提供したことはなく、また要請されたとしても提供することはありません。今後も引き続き、日本のユーザーや関係機関の皆さまにしっかりと説明責任を果たしてまいります」

 ただ、本当に中国政府の影響を受けないと言い切れるのか。これまでも、懸念はあった。

 昨年11月、米国在住の女子高生がメイク動画に見せかけて、中国当局によるウイグル人の弾圧を非難する投稿をしたところ、アカウントは一時停止となった。批判を受けて、TikTokは「人為的なミス」と謝罪した。今年8月には、バイトダンスが、インドネシアのニュースアプリ上で中国政府に批判的とみられるコンテンツを検閲していたと報じられている。

 ITジャーナリストの三上洋さんは、中国企業ならではの事情があるという。

「中国には、政府から要請があった場合、企業は情報を提出しなければならない『国家情報法』があります。運営側がいくら否定しても、疑念は拭い切れないでしょう」

 TikTokは、中国とのつながりが「薄い」とアピールしてきた。他の中国産アプリと比べても世界中にユーザーがいるTikTokには、一見して「中国の影」は感じられない。

 三上さんは「成り立ちからして、他の中国アプリとはスタンスが違う」と話す。17年に米国の音楽アプリを買収して世界でシェアを広げた一方で、中国国内ではTikTokとは別のアプリ「抖音(トウイン)」として展開している。

 利用者の情報についても、サーバーは米国とシンガポールに置いている。さらに今年6月、米国法人のCEOに米ウォルト・ディズニーの幹部だったケビン・メイヤー氏を迎え入れ、いっそう欧米色を強めた。

次のページ