テーマは重いが、監督たちの持ち味であるユーモアは本作にも息づく。ユーモアを交える理由をトレダノ監督はこう話す。

「人生で悲劇が起こったとしても、時間が経って振り返れば喜劇になることがある。距離を置いたり時間が経ったりすることで、人は聡明(そうめい)になるもの。深刻な題材もまた、ユーモアを挟むことで観客は一息ついて(映画の世界に)戻ってきてくれるから好きなんです」

 10代のサマーキャンプで映画を作る夢を語り合い、今も共に映画を作り続ける二人の監督。「大人になりたくない」という気持ちは今も変わらない。

「僕たちは映画作りでも『遊ぼう』という感覚を大切にしたい。それは奇跡的なことだと思うから。“最強のふたり”の冒険はこれからも続いていくんだ」

◎「スペシャルズ!」
9月11日から東京・TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開

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 エリック・トレダノ監督が、

「普段は危険な男の役が多いヴァンサン・カッセルですが、今回は自分の中の女性性を引き出してもらいたかった。みんなが思う彼ではなかったことで反響がありました」

 と話す通り、「スペシャルズ!」のカッセルはいつもとは一味違う。どのくらい違うかと言えば、近作ならスパイアクション映画「ジェイソン・ボーン」(2016年)で確認できる。カッセルが演じるアセットは、マット・デイモン演じる主人公ジェイソン・ボーンの暗殺をたくらむCIA長官が放った刺客だ。

 記憶喪失だったボーンが記憶を取り戻し消息を絶ってから数年。地下格闘技の世界で生計を立てていた彼のもとに元CIA局員のニッキーが現れる。彼女はハッカーグループと手を組み、CIAのサーバーから極秘情報を盗み出していた。そこには、ボーンの殺害された父親がかかわった「トレッドストーン計画」の情報が含まれていた……。

 冷酷無比、顔色一つ変えずに邪魔者を消していくアセット。カッセルを悪役面と言ってしまえば身もふたもないが、悪役は主人公にも負けない個性が必要。カッセルの持ち味が生かされた理想的な配役だ。

◎「ジェイソン・ボーン」
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
価格1429円+税/DVD発売中

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2020年9月14日号