医療現場で不可欠な高性能マスクが不足している。その入手困難さから宝くじやダイヤモンドと評されるほどだ。AERA 2020年9月14日号はマスク争奪戦を追った。
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新型コロナウイルスの感染拡大は一進一退を繰り返しながら、いまだに収束の糸口がつかめない。北半球がこれから冬へと向かい、インフルエンザとの同時流行も懸念される中、深刻になっているのが最前線に立つ医療従事者が自らの命を守り、院内感染予防にも必要不可欠な医療用高機能マスクの品薄だ。
感染拡大初期の2月から数カ月は日本中から姿を消した一般消費者用の不織布マスクは、生産・輸入の拡大と繰り返し洗って使える布マスクの普及などにより需給バランスがむしろ元通り以下に緩み、業界ではもはや品薄の心配はないとみられている。それとは対照的に、医療用高機能マスクは国際的な争奪戦が続き、医療現場で信頼される米3M社の「N95」マスクは今や、「宝くじ」と言われるほど入手困難だという。
■米で増産も追いつかず
「N95の中でも市場競争力があるのは3M社製品一択ですね。他は品質的にも医療現場で全然信用がないので、我々業者も今は仕入れようと思いません」
こう話すのは、国際的なバイヤーを複数抱える代理人だ。N95とは米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が定めた規格で、直径0.3マイクロメートルの微粒子を95%以上捕集する能力があるマスクのこと。従来は医療現場の中でも、結核などの指定感染症に対応する専門的な医療従事者にのみ必要とされていた。代理人が続ける。
「新型コロナのパンデミックで、当然のようにN95タイプのマスクの需要も爆発的に増えた。そもそもの市場規模が小さいので、大手の製造元は3Mぐらいしかなかった。そこで中国が新たにKN95という規格で同様の捕集効果をうたうマスクの製造に乗り出したものの、粗悪なものがほとんど。逆に3Mの信頼性が高まって国際的な争奪戦に拍車がかかり、偽物が横行したり詐欺被害が頻発したりする温床になったわけです」