過酷な現実を捉えながらも、それぞれが前に進もうとする姿を映し出したこの作品は、昨年の米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた。完成前に映像の断片を観たザックとキアーは目に涙を浮かべていたという。

 ビンにとって、ロックフォードの街はどんな存在なのか。

「この街で生まれたわけではないけれど、僕にとってはホームタウン。自分というものを形作ってくれた場所だ。アメリカのなかでは負け犬のような場所だけれど、応援せずにはいられない街なんだ」

◎「行き止まりの世界に生まれて」
ビン・リュー監督のスケートボード仲間であるザックとキアーの12年間を追う。9月4日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD「KIDS <HDリマスター>」

 ガス・ヴァン・サント監督の「パラノイドパーク」をはじめ多くの作品で、スケートボードは若者たちのアイコンとして登場してきた。彼らにとって、それは束の間の逃避行のツールであり、スケボー仲間たちは、家族から離れ自身で切り開いていくコミュニティーの象徴として描かれる。

「行き止まりの世界に生まれて」のビン・リュー監督が影響を受けた作品として挙げているものの一つに、写真家のラリー・クラークが初めて監督した「KIDS」(1995年)がある。描かれるのは、ニューヨークで暮らす若者たちの退廃的な一日だ。

 スケートボード、アルコール、思春期の性……。賛否を生んだ作品だが、“リアル”という言葉では足りないほどの圧倒的な生々しさがここにはある。脚本は自身もスケートボーダーだった、当時19歳のハーモニー・コリン。ガス・ヴァン・サントは製作総指揮に名を連ねている。

「行き止まりの世界に生まれて」はその編集手腕から劇映画のような側面を持つのに対し、「KIDS」はドキュメンタリーと見紛うかのようなフィクション。両者の境はどこにあるのだろう、と考えずにはいられない。

◎「KIDS <HDリマスター>」
発売元:ディメンション 発売協力:ピカンテサーカス
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2020年9月7日号