女性は感染を防ぐために、スマホや郵便物、スーパーなどで買った商品など、外から持ち込んだものはすべて、帰宅後にアルコールを含ませたペーパーでふき取っている。夫も「できる限り気をつけた方がいい」という点では一致し、考えに賛同してくれた。だから同じことを頼んでいるが、忘れてしまうのか面倒なのでやりたくないのか、何もしない。女性が注意すると、

「わかったよ!!」

 と怒鳴り散らす。何度も同じことで怒鳴られ精神的に持たなくなったという女性は言う。

「今はあまり夫を刺激しないようにしています」

コロナ禍では感染そのもののリスクに加え、私たちの暮らしの中で生じてきた軋轢や不協和音が人と人、社会の「分断」を引き起こそうとしている。

 本誌が行ったアンケートでも様々な声が寄せられた。

 それを見ると、家庭内だけでなく職場やママ友など、暮らしの至る場所でさまざまな軋轢が起きている。社会心理学が専門の近畿大学の村山綾准教授は、次のように説明する。

「コロナによって私たちを取り巻く環境が一変しました。同時に、今まで知らなかった相手のことや相手の価値観を知る機会も増えました。それを受け入れることができたら問題ありませんが、自分の価値観と合わないと葛藤が生じ、相手を許容できないとか、軋轢やギスギスした感情につながりやすいと考えられます」

(編集部・野村昌二)

AERA 2020年8月31日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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