封鎖された住居の入り口、おそらく感染者が出たのだろう――政府による強制隔離方法(インターネットから)
封鎖された住居の入り口、おそらく感染者が出たのだろう――政府による強制隔離方法(インターネットから)
武漢市民がネットに投稿した、自家製の「マスク・クッキー」(インターネットから)
武漢市民がネットに投稿した、自家製の「マスク・クッキー」(インターネットから)

 新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。新型コロナウイルスによる肺炎の患者が急速に増え始めると、阿坡も自らの健康に不安を抱くようになる。

【写真】武漢市民がネットに投稿した、自家製の「マスク・クッキー」

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■2020年2月初旬 SNSで1分間に40~50人増える感染者数(4)

 中国式ロジックと現行政府に対する私なりの見方からすると、流行状況は当局の発表よりもひどいのはもちろんだが、ロックダウンの決定は明らかに角を矯めて牛を殺す的な過度で大げさすぎる、軽はずみな行為に思えた。中国政府がこの種の無茶な行為をすることはさほど多くはないとはいえ、私たちが経験しつつある事態は驚くに当たらない。

 封鎖に続く3日間、武漢の公共交通は全面運休となり、政府は市民に不要不急の外出を控え、公共空間では必ずマスクをするよう呼びかけた。しかるに私には楽観がきざした。武漢市当局が打ち出した対策は非常に厳しいものだが、それは、私にすれば過度に大げさな政策であり、市民がこれ以上流動しないように、必ずマスクをするように仕向けるためのものだ。だいたい2週間、長くて3週間もすれば都市封鎖は解かれるに違いない。なんといっても武漢は1000万都市だ。家に閉じ込められた1000万人の恐怖と焦慮の拡大効果は計算できないほど大きなものだ。その後難は想像し得ない――。

■政府発表「数十倍」の感染者

 それに続く急転直下の情勢変化はまったく想像できないものだった。武漢市当局が毎日発表する新たな感染者数は跳ね上がりつづけたが、この数字はもちろん信用できないもので、SNS微博(ウェイボー)上の救助要請はまさに天地を覆いつくすほど。封鎖10日ともなると微博では1分ごとに40~50人増える有様となった。

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阿坡(A.PO)

阿坡(A.PO)

阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。

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