これを受けて自民党政調会が検討チームをつくり、翌3月には「ミサイル防衛の強化」を提言。この提言をもとに防衛省は同年5月、イージス・アショアを導入する方針を固め、8月には当時の小野寺五典防衛相が米政府に導入の意向を伝えている。

 電光石火で決まった導入の経緯を振り返れば、「安倍一強」のもと、自民党と防衛官僚による出来レースが展開され、イージス・アショアは国防上の必要性からではなく、「導入ありき」で進んだ政治案件であることがわかる。

 そして同年12月、安倍内閣はイージス・アショアの導入を閣議決定する。この閣議決定は翌18年12月にやはり閣議決定された「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」にしっかり反映されている。

 つまり、イージス・アショア導入は2回の閣議決定を経て、がんじがらめとなり、簡単には「ないこと」にはできない仕組みとなっている。

 政治案件とはいえ、防衛政策に昇華させた以上、つじつま合わせが必要になる。配備断念を受けて開かれた自民党国防部会などの合同会議では、小野寺氏や稲田朋美元防衛相らが「敵基地攻撃能力の保有」を主張し、後日、安倍首相も同調した。

 だがそもそも、敵基地攻撃は可能なのか。イージス・アショアの導入を決めた閣議決定は「北朝鮮の核・ミサイル開発に対処する」としており、保有を検討する敵基地攻撃能力は「対北朝鮮向け」になる。

 米国防総省の報告書によると、北朝鮮が保有する移動式のミサイル発射機は最大200台。敵基地攻撃で破壊する必要があるのは200台すべてということになる。一台でも残り、核弾頭が搭載されたミサイルを発射された場合、甚大な被害を受けるのは確実だからだ。

 しかし北朝鮮は弾道ミサイルの発射地点を転々と変え、攻撃された場合を想定して目標を絞らせない。

 イラク戦争で米英軍は、イラク軍が保有していた約80台のミサイル発射機のうち、46台を空爆で破壊した。このほか地上部隊が破壊した発射機もあるが、イラク軍は米英軍に対して18発の弾道ミサイルと4発の巡航ミサイルを発射している。

次のページ