世界最強の米軍でさえ、すべての発射機を破壊することはできず、反撃されている。このときのイラクは湾岸戦争の制裁が続き、制空権を維持できていない。それでも米英軍がミサイル発射機を壊滅できなかったという事実は重い。

 敵基地攻撃には、適時適切な情報が欠かせない。移動可能なミサイル発射機の位置を特定するには監視役の人物、いわゆるスパイから情報を得るのが一番だ。また軍内部で交わされる通信の傍受も必要になる。

 しかし、日本政府ができる情報収集といえば、1日に1回の割合で北朝鮮上空を通過する情報収集衛星が撮影した画像と、防衛省情報本部の通信所・分遣班による北朝鮮軍の無線通信の傍受にとどまる。

 情報収集衛星による画像情報では移動するミサイル発射機の現在位置を掌握するのは困難なうえ、無線通信も情勢が緊迫すれば周波数を変えられてしまい、傍受不能になる事態が予想される。国交のない北朝鮮に日本政府への協力者がいるとは考えられず、仮にいたとしても厳しい監視下でリアルタイムの情報を送ってくるとは到底思えない。

 つまり敵基地攻撃は実効性が乏しく、そのための予算は無駄金に等しい。法理面でみても先制攻撃になりかねない敵基地攻撃は、憲法違反のおそれがあるだけでなく、国連憲章にも違反する。(防衛ジャーナリスト・半田滋)

AERA 2020年8月3日号抜粋