ただ、会社側もこうした事情を把握しているので、巧妙な手を用いてくるケースも見受けられる。正式に宣告するとトラブルになりうることを踏まえて、解雇するつもりだから退職届を出せと要求するというパターンだ。嶋崎弁護士はこう続ける。

「会社側が退職届を出させようとするのは、解雇がもたらす事後トラブルの回避や、会社都合の退職者数の増加で助成金が得られなくなることの防止などが理由。しかし、自ら退職届を出してしまうと、不当解雇に対して司法で争う道が狭められてしまいます。こうした要求は、断固拒否すべきです」

 うっかり要求をのんで退職届を出してしまった人もいるはずだ。嶋崎弁護士によれば、労働法は「真の同意」があるかどうかに関して厳格で、錯誤(意思表示の誤り)による無効と判断される可能性もあると言う。

「それに退職を強いられたことが判明すれば、先の失業手当も雇用保険法ですぐに受給できる可能性もあります」

 コロナだから、といろいろあきらめるのはやめよう。(ライター・大西洋平)

AERA 2020年7月20日号より抜粋

著者プロフィールを見る
大西洋平

大西洋平

出版社勤務などを経て1995年に独立し、フリーのジャーナリストとして「AERA」「週刊ダイヤモンド」、「プレジデント」、などの一般雑誌で執筆中。識者・著名人や上場企業トップのインタビューも多数手掛け、金融・経済からエレクトロニクス、メカトロニクス、IT、エンタメ、再生可能エネルギー、さらには介護まで、幅広い領域で取材活動を行っている。

大西洋平の記事一覧はこちら