握手を交わす茂木敏充外相(右)と韓国の康京和外相/2019年11月23日、名古屋市内で (c)朝日新聞社
握手を交わす茂木敏充外相(右)と韓国の康京和外相/2019年11月23日、名古屋市内で (c)朝日新聞社

 新型コロナや北朝鮮による挑発で、課題山積の日韓関係もいったん棚上げ状態だった。だが、徴用工問題など年末に向けて再燃する可能性がある。AERA 2020年7月13日号から。

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 徴用工判決を巡る日本企業の韓国資産現金化の動きはどうなっているのか。韓国メディアは6月初め、韓国大法院が新日鉄住金(現日本製鉄)に賠償を命じた徴用工訴訟で、大邱(テグ)地裁浦項(ポハン)支部が、同社に資産差し押さえの通知書類が届いたとみなす公示送達の手続きを取ったと伝えた。8月4日に効力が発生するという。

 日本政府関係者らは、この報道にも首をひねった。日本製鉄は韓国内に支店がなく、韓国の裁判所が書類を同社に通知できない状態が続いていた。だが、裁判所が差し押さえたのは、日本製鉄が持つ韓国鉄鋼大手ポスコとの合弁会社「PNR」の株式。PNR社は既に、資産差し押さえの通知書類を受け取っている。韓国の原告団も昨年5月、現金化の命令を出すよう韓国の裁判所に申請。公示送達の手続きがなくても、裁判所は法理上、すぐ現金化命令を出せる状況にあるからだ。

 日本政府関係者の一人は韓国の報道を「提訴再開の動きと同様、日本を牽制した韓国政府の動きを受けたものではないか」と語る。逆に、日本政府内ではこの報道が呼び水となり、再び、現金化された場合の報復措置の議論が始まったという。日本は18年10月の徴用工判決直後、菅義偉官房長官のもと、関係省庁が集まり、報復措置を議論した。だが、どの省庁も日韓摩擦の最前線に立たされることを嫌がり、議論が進まなかった。

 日本政府は、条約違反などの違法行為で損害を受けた場合、等しい内容で報復しても構わないというのが国際法上認められた権利だと解釈。日本は徴用工問題も、日韓基本条約に基づく請求権協定で全て解決済みと主張。日韓関係筋の一人は「日本は国際法順守を訴えてきた。国際法違反による被害を受けたら、是正しなければ自分たちの立場が矛盾に陥る」と語る。

 茂木敏充外相は6月30日の記者会見で、「現金化が行えるようになれば、極めて深刻な事態になる」と改めて強調した。

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