「レジデンシャル百合ヶ丘」で面会中の70代の夫婦。夫は毎日のように訪れ、施設内の交流スペースでマッサージや屋外の散歩をして30分間を過ごす(撮影/写真部・掛 祥葉子)
「レジデンシャル百合ヶ丘」で面会中の70代の夫婦。夫は毎日のように訪れ、施設内の交流スペースでマッサージや屋外の散歩をして30分間を過ごす(撮影/写真部・掛 祥葉子)

 緊急事態宣言解除後も、介護施設での面会は「緊急の場合を除き、一時中止」とされている。感染予防か介護の質か──。重症化リスクの高い高齢者を前に、現場も家族も揺れている。AERA 2020年7月6日号から。

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「もう3カ月、父に会えていません。ここまでやる必要があるのでしょうか」

 兵庫県神戸市に住む女性(57)は嘆いた。今年2月から父親(87)が市内の介護老人保健施設に入居している。父親は軽度の認知症がある。週に1度は面会に訪れていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、3月半ばから面会禁止になったままだ。女性は「新しい生活様式」とソーシャルディスタンスの必要性も、頭では理解している。

「でも、会わない時間は、認知症が進んでいく時間でもあります。親子の間ではなんとか成立していた会話が、次に会った時もできるだろうか。気が気ではないし、納得いきません」

 国は5月25日に見直した基本的対処方針でも、介護施設での面会は「緊急の場合を除き一時中止」としている。ただし、強制力はなく、解除後は条件付きで面会を再開する施設もある。

 神奈川県の特別養護老人ホーム、レジデンシャル百合ヶ丘は、緊急事態宣言解除後は、面会場所を別途設ける、密にならないよう予約制で時間をずらすなど対策して、面会を実施している。施設長の高橋好美さんは言う。

「手洗いやうがいなど、基本的な感染症予防策を徹底し、施設内にウイルスを持ち込みさえしなければ、いたずらに恐れることはないと考えています」

 その上で、基本的な介護を専門職が引き受け、「家族と入居者との絆は断たないようにする」のが施設の役割だと話す。

「それを強制的に『切って』しまうのは、過剰対応だと思います。家族に会えないのはあまりにむごい。面会の権利まで奪うべきではない」

 感染対策か、介護の質か──。介護老人保健施設などを運営する医療法人財団「百葉の会」人材開発室部長で、介護アドバイザーの高口光子さんは、現場の介護職員がその狭間で悩み、揺れる場面も多いと言う。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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