「兄にはいろいろな能力があり、冗舌で女性を褒めまくるので、よくモテたらしいんです。2度の結婚と内縁関係でできた子どもは6~7人(笑)。元妻であるふたりはとても優しい人たちで、兄はああいう100%優しい人のそばじゃないと生きられなかった。それがすべて断たれたあとは、5年しか保ちませんでした」

 つらいことも多い内容だが、読後感は明るい。それは村井さんと加奈子さん、心優しい多賀城の人たちとの間に新しい関係が生まれたこと、母に引き取られた良一君がまわりに支えられながら、次へと踏み出す姿があるからだろう。

「驚いたのは兄の話が意外にも珍しくはないらしいことでした。読者の皆さんにも心配な兄弟姉妹がいたり、自分が心配される側だったり。ある程度の年齢になったら、誰もが家族の最期を考えないといけないものだったんですね」

(ライター・千葉望)

■八重洲ブックセンター川原敏治さんのオススメの一冊
『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』は、ゲコノミストである著者が「脱ノミニケーション」の必要性について説いた一冊。八重洲ブックセンター川原敏治さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

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 健康管理を経営上の重要案件とする「健康経営」や職場の多様性の問題、新型コロナウイルスの影響……。いまや日本の成人の半数以上はお酒を積極的に飲まなくなっているという。ところが、お酒を飲まない人は少数派ではなくなっているにもかかわらず、世間はまだ「お酒を飲む」ことを中心とした社会から抜け出せてはいない。いまだ、お酒を飲まない「ゲコノミスト」は、肩身の狭い思いをすることが多いのだ。

 そんな現状を嘆く「ゲコノミスト」である著者が、今後は一層お酒に頼らないコミュニケーションが重要になっていくこと、お酒を飲まない人向けの市場の拡大によって、ビジネスチャンスが大きく広がっていることなどを指摘しながら、事例も豊富に解説する。「お酒を飲まない」という視点から、新しい社会、経済を見せてくれる一冊だ。

AERA 2020年6月29日号