さすが非常識人間は違う、とため息をついたのですが、後日この話を日本人男性と結婚しているアメリカ人女性にしたところ、彼女も同じような見解だったのです。


「そういえばアメリカでかゆみ止めクリームって買ったことないかも。でもね、日本に行ったときは毎回大量に買ってくるよ、ムヒ」

 そう、そうなんです。日本人にとってはおなじみのかゆみ止め──薬局やスーパーにかなりの確率で置いてあり、特に夏場は自宅の薬箱やかばんに常備されているといっても過言ではないムヒ(もしくはウナコーワ)。日本人にはたったの2文字(もしくは5文字)で通じる用語なのに、アメリカだと人や企業によって表現はさまざまで、人によってはググらないとわからなくて、表記には主に13文字(anti-itch cream)、あるいはitch stopping cream(17文字)をも費やさなければなりません。虫さされ用であることを強調したいときにはさらに11文字(for bug bites)増加。ムヒやウナコーワのように商品名がそのまま浸透している例はアメリカにもありますが(おむつかぶれに使うクリーム、Desitinなど)、かゆみ止めに関しては表現が定まっていないようです。

 なにより、赤ちゃんや幼児でも使える安心配合のかゆみ止めが、必ずしも店舗に置いてあるわけではないのが驚きです。日本には、生後1カ月から使えるベビー用に加え、キャラクターデザインつきやかきむしりを防ぐパッチタイプなども店舗に並んでいて、もう、圧倒の品ぞろえ。一部のアメリカ人には、「2~3日ガマンすれば治まる虫さされに、なぜここまでの情熱を注ぐのか?」と思われるかもしれません。日本の虫さされ対策は、かなりヘン。この夏以降、我が家では「日本に帰る際は、特に子ども用の虫さされ用クリームを大量買い」が合言葉になりました。

◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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