一方、夜は一変して暴動となる。ニューヨークの繁華街、5番街やSOHOでは、ブティックや百貨店のウィンドーが壊され、中の商品が略奪された。郊外では、取り締まり中の警官がひき逃げされたり、銃撃されたりする事件まで起きている。暴動の捜査を主導するビル・デブラシオ・ニューヨーク市長は、「夜の略奪者は、市外から来ている」と明言。デモを、黒人など有色人種が中心の危険な運動だと印象付けるため、略奪や警察官攻撃を繰り返すグループがいることを示唆している。

 全米を揺るがすデモは、今年11月に行われる大統領選挙にも影響を及ぼす可能性がある。トランプ大統領は危機の中、テレビ演説もせず、国民を守るべき軍隊をデモ隊に差し向ける意向まで示した。これには共和党幹部やトランプ支持者も驚いた。民主党の事実上の大統領候補ジョー・バイデン前副大統領に有利になったという見方もある。RealClearPoliticsが6月4日に各社世論調査平均をまとめたら、支持率はバイデン氏49.3%、トランプ氏42.1%だった。

 6月4日午後2時(米東部時間)から、フロイド氏の葬儀が開かれた。その時間に全米で1分の黙祷(もくとう)をする呼びかけがインスタグラムでシェアされた。この運動の広がりは、1950年代から60年代に黒人の権利を求めた公民権運動の再来になるかもしれない。タイム誌など米メディアは、公民権運動との類似性を指摘している。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)

AERA 2020年6月15日号