大杉義征(おおすぎ・よしゆき)/1944年生まれ。薬学博士。69年、大阪大学大学院修了後、中外製薬に入社。現在は、大杉バイオファーマ・コンサルティング会長(写真:大杉さん提供)
大杉義征(おおすぎ・よしゆき)/1944年生まれ。薬学博士。69年、大阪大学大学院修了後、中外製薬に入社。現在は、大杉バイオファーマ・コンサルティング会長(写真:大杉さん提供)

 世界110カ国以上で使われている日本発の関節リウマチ薬「アクテムラ」が、新型コロナによる重症肺炎の治療薬として再び脚光を浴びている。薬のどのような特性が新型コロナの治療に有効とされるのか。AERA 2020年6月1日号は発明者の大杉義征さんに聞いた。

【図】コロナ治療に期待される治療薬はこちら!

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 私が中外製薬時代に研究開発に関わった薬「アクテムラ」に新型コロナウイルスによる肺炎を改善する効果が期待されています。アクテムラ開発のきっかけは、1986年に大阪大学の岸本忠三、平野俊夫両博士が、免疫で重要な役割を果たすインターロイキン6(IL‐6)という物質を発見したことです。発表の場に居合わせた私は「画期的な自己免疫疾患の治療薬が作れる」と直感。以来、阪大チームとの共同研究に邁進し、関節リウマチ治療薬の開発に成功しました。

 関節リウマチは自己免疫疾患で、体内でIL‐6の暴走が起こり、強烈な痛みや腫れ、最後には関節の骨破壊に至ります。アクテムラはIL‐6の作用を阻害することで優れた治療効果を示すので世界中で広く使われています。

 なぜ今アクテムラが注目されるのか。キーワードは「サイトカインストーム」と呼ばれる免疫機能の暴走です。

 当初、新型コロナで肺炎が重症化するのは、高齢者だけと言われていましたが、免疫力が高いはずの若年層でも急激に重症化するケースが報告されるようになりました。

 重症化のメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、専門家はサイトカインストームが起きている可能性を指摘しています。アクテムラにはサイトカインストームを抑える作用があるのです。

 体内にウイルスなどの異物が侵入すると、免疫の司令塔であるT細胞はサイトカインというタンパク質を分泌。それに刺激された仲間のB細胞がウイルスをやっつける抗体を作るメカニズムになっています。IL‐6はサイトカインの一種で、本来は感染症と闘うのに欠かせない物質ですが、一方で過剰に働くと健康な組織や臓器までをも攻撃してしまいます。その状態がサイトカインストームです。

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