4月に行われたWWEの年間最大のイベント「レッスルマニア」は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、パフォーマンスセンター(訓練施設)での無観客試合となった。

中邑:発熱の有無にかかわらず、少しでも体調を崩したり、疾患があったりする選手やスタッフは、2週間の自宅隔離になるか収録に参加しなくなりました。現場は予定していた試合が変更されたりバタバタでしたが、この緊急時に素早い対応と変更を行ったWWEの決断は、正解だったと思います。試合は次々にキャンセルされる状況でしたが、いまではプロレスが「エッセンシャルワーク」であると認められ、ありがたいことに試合をすることが許されています。

 WWEの事業はフロリダ州知事が定める「必要不可欠なサービス」として、食料品店や病院、銀行、公共インフラなどとともに、非公開を条件に継続を認められた。今年の「レッスルマニア」初日のメインマッチ、ジ・アンダーテイカーとAJスタイルズの試合は、「ボーンヤードマッチ(墓場埋葬マッチ)」。墓場を舞台に、両者が3メートルもの深さの墓穴に落としあうという激しくドラマチックなものだった。プロレスの新たな可能性を示したといえる。

中邑:無観客だからこそできる試合もあると思います。アンダーテイカーとAJの試合はまさに映画で、プロレスというエンターテインメントとしても成立させていました。もっとシリアスな戦いを望むのなら、個人的にはプロレスをスポーツ中継のように撮らず、照明やカメラも密室での決闘のように撮ると、無観客でしか出せない臨場感や選手の表情なんかも引き出せるんじゃないかと思います。プロレスラーには生の現場で培ったアドリブ力があるので、こういう状況には強いと思いますよ。

 アメリカではフロリダ州に居を構え、世界中を飛び回る多忙な日常の中でも、予定がなければサーフィンに行く暮らしを送っていた。いま、コロナ禍の中で思い出すのは、東日本大震災後の頃だという。

中邑:朝起きるたび、これは夢なんじゃないかと思ってしまう毎日です。震災の後、死や、生きるということを真剣に考えました。自分に限らず多くの人に変化が起こり、生き方も変わりました。きっとこのパンデミックの後、世界中でいろいろな変化が起こるのだろうと。生き方、働き方、価値、環境……。それでも一生懸命楽しく生きたいと思っています、ぼんやりと、今は。

(朝日新聞出版・小柳暁子)

AERA 2020年5月25日号