ゴミ山に浮かぶ気高き青年と虹/ケニア最大のゴミの山で暮らす青年。貧しくても犯罪に手を染めることなく生きる姿は気高い。赤飯のような食事を上出さんは共にした(写真:テレビ東京提供)
ゴミ山に浮かぶ気高き青年と虹/ケニア最大のゴミの山で暮らす青年。貧しくても犯罪に手を染めることなく生きる姿は気高い。赤飯のような食事を上出さんは共にした(写真:テレビ東京提供)

 貧困国の元少年少女兵や台湾マフィア、ロシアのカルト教団の人たちは何を食べているのか。そんな好奇心を満たす人気テレビ番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」が、返す刀で突きつけるのは「幸せの定義」だ。AERA 2020年5月18日号は、番組を企画したディレクターに話を聞いた。

【写真】「ハイパーハードボイルドグルメリポート」が伝えた“ヤバい”世界と食事はこちら(計6枚)

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 明かり一つない真っ暗な食堂。リベリア人の女性が米飯をかき込む。かみしめるたび、ほおがゆるむ。舌が感じる味まで伝わってくるような清々しい笑顔だ。

 人は食べなければ生きていけない。そして、食べることは幸せの源。そんな当たり前のことをテレビ東京の番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」は教えてくれる。それも「ヤバい」映像を通して。

 番組は2017年に放送されるや否や、カルト的な人気を得た。現在はNetflix(ネットフリックス)で海外にも配信され、YouTube(ユーチューブ)では未放送分がスピンオフとして配信されている。

 制作のリーダーは、テレビ東京ディレクターの上出(かみで)遼平さん(31)。入社6年目にして初めて通った企画だった。そして今年3月にはロケの裏話も盛り込んだ初めての著書『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(朝日新聞出版)が上梓された。

 なぜ、番組がヤバいのか。

 それは、表向きは海外のローカル食を紹介するグルメ番組の体裁だが、登場する場所と人は極めてデンジャラスだからだ。貧困国やギャングの街、カルト教団の村など、「普通の人」は避ける地域ばかり。取材相手も内戦を生き抜いた元兵士や国境越えに挑戦する難民、台湾マフィア、物乞いの親子など、貧困や偏見にさらされたり、反社会的と扱われる人たちだ。

 1日1食にもこと欠く境遇の人が多いのだが、番組には不思議と悲愴感はない。それどころかモノに恵まれ、彼らの生活を娯楽として消費する視聴者のほうが、「自分は本当に幸せなのだろうか」と突きつけられる。

 番組を企画するきっかけの一つは、上出さんが経験した数多くの海外ロケだった。

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