そんな彼女に上出さんは「ひと目惚れ」した。

「この人が好きって思うのは理屈じゃない。ビビッとくる。リベリアで最も危険と言われる墓場で出会ったラフテーは、人の頭蓋骨を手に持ち、遠くから僕を見ていた。その姿をカメラのモニターごしに見たとき、雷に打たれたような感覚があった」

 動物的な嗅覚でロケを進める上出さんたちの心の動きは、画面から生々しく伝わってくる。それはロシアのカルト教団の村で出会った少年との交流にも表れていた。上出さんは冗舌に語る少年より、恥ずかしげな笑みを浮かべる、もう一人の少年に寄り添う映像を撮っていた。

「よくしゃべる人から出てくる言葉には力がない。寡黙な人のほうが本音を話してくれたり、心がすごく通じ合うことがある。そう考えるのは僕が大学時代、ハンセン病の元患者さんが暮らす中国の隔離村へ通ったり、子どもの頃から自信満々な人が苦手で、教室の隅で爪をかんでいるような子と話したくなるタイプだったからかも」

 そして、相手との距離を縮めるには「リスペクトすることしかない」とも。人は自分を尊重してくれる相手をむげに扱うことはしないからだ。

 上出さんはこの番組を「やさしい人と作りたい」と語る。自らの弱さを自覚し、一つひとつ点検し、その上で自分に折り合いをつけている強さを持つ人だ。

 続編の制作は新型コロナウイルスの影響もあり、未定だ。今後のテレビ界について、上出さんはこれまでとは違う方向に向かうのではないかと感じている。

「僕が番組作りで重視するのは身体性。それはどんな世の中になっても変わらない。知らないことは人を不幸のどん底に陥れる。そうならないためにワクワクする気持ちと一緒に『知る』ことを伝えたい」

 社会的意義のある話は関心のない人に届いてこそ意味がある。そのために上出さんは、今日も知恵を絞る。(ライター・角田奈穂子)

AERA 2020年5月18日号