「あなたのやろうとしていることは本当に大事です、と共感してくれたんです」(智世さん)

 ブランド立ち上げのリリースを打つと複数のメディアに取り上げられ、半年後に創元社の編集者・小野紗也香さんから本の出版を打診された。「同い年の女性が服で世の中のジェンダー観を変えようとする行動力に感動しました」(小野さん)。ブローレンヂの服はネットで話題となり、現在は男性だけでなく、体格のいい女性や女性アスリートからの需要もある。

 ブランド立ち上げから1年後の2018年6月には、東京大学の安田講堂で「ファッションポジウム」を開催した。イベント実現を後押しした、同大学東洋文化研究所教授の安冨歩氏(57)は、50歳のころから女性の服装をしている。女性の格好をすることで「男らしくあるべし」というプレッシャーから解放されたことが理由だ。

「私は以前からトランスジェンダー向けの服があるべきだと考えており、いくつかのブランドに提案しましたが、どこもやろうとしない。それを彼女が徒手空拳で始めた。現在の日本で、ブローレンヂは世界ブランドに成長できる可能性がある数少ないアパレル事業です」(安冨氏)

 厚い胸板や肩幅を目立たせず、腰回りをふっくら見せるなどの計算されたデザインがブローレンヂの洋服の特長だ。華やかな印象を与えるため、厳選した素材のレースや宝石のような飾りボタンを使用、着心地良く長く着られる「本物」を志向する。

「道端の花は男女関係なく誰が見ても美しいと感じる。『男らしさ』に苦しむ男性が、花柄の洋服やスカートを着る姿が普通になってほしい」(智世さん)

(ライター・大越裕)

AERA 2020年5月18日号