日本のPCR検査数が諸外国に比べ桁違いに少ないことは、これまで度々指摘されてきた。国により感染拡大の状況が違う可能性はあるとはいえ、検査数を極端に絞っていることから、日本はその状況さえ不明と指摘されることすらある。

 安倍晋三首相は4月6日、検査を1日に2万件実施できるような体制をつくる方針を示した。しかし、実態は遠く及ばない。厚生労働省の公表している資料では、4月以降に検査数は増え始めているものの、現状では多くても1日8千件を下回る水準で推移している。

 物議を醸した発言がある。

「病床が満杯になって重症者が入院できない状況を避けるため、検査にかける条件を厳しめにやった」

 4月10日、さいたま市の西田道弘・市保健所長は、PCR検査数の割合が、さいたま市で少ないことについて報道陣にこう語った。3日後、清水勇人市長が「誤解を招く表現だった」と釈明したが、「病床が満杯になって……」のくだりのことでもないのだという。

 取材に応じた市保健所の担当者は話す。

「『厳しめにやった』という言葉ですが、県が定めた指針から逸脱して厳しくやったというわけではありません。本市だけが厳しくやっていると受け取られるかもしれない、という意味での『誤解』です。だから、病院があふれるのが嫌だという気持ちは依然としてあるわけです。ただそこは、もともと国や県もそういう方針でやっていますから……」

 日本でPCR検査の件数が抑えられてきた背景は、東京オリンピックを予定通り開催したい官邸の思惑など、さまざまに語られている。そして、政府の専門家会議のメンバーらが、検査より「クラスター」と呼ばれる患者集団への対策を重視してきたことは事実だ。そこには「医療崩壊を起こさせないため」という理屈もつけられていた。

 だが、WHO事務局長上級顧問を務める英国キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司教授は言う。

「検査を抑えないと患者が増えて医療崩壊するというのは、指定感染症にしたので陽性者を全員入院させなければならなくなったからであり、検査が理由ではありません。むしろ、検査をしなかったことで市中感染と院内感染が広がり、そこから医療崩壊が起こっているのが日本の現状です」

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