「後戻りすることを誰も考えてこなかったから、人手や手間、カネ、モノに関わるどんな問題が発生するのか実際にやってみないとわからない。延期決定後も新型ウイルスは拡大の勢いを強めているので、その影響は全く読めなくなりました」

 次の焦点は、延期後の開催がいつになるのかだ。

 IOCは当初、延期の結論を出すまでに4週間かかるとしていたが、実際には2日後に決まった。これは世界陸連が、来夏に米国で開催予定だった世界陸上選手権の日程を「変更可能」と表明した影響が大きい。同じく来夏に福岡県で開かれる予定の世界水泳についても、国際水泳連盟が日程変更の協議を始めた。人気や知名度で五輪競技を牽引してきた「ツートップ」が支援を表明したことで、1年後の「夏開催」の可能性が高まってきたといえる。

 ただ、猛暑への懸念からマラソンのコースが札幌市に変更された経緯を考えれば、夏を避ける選択肢はないのか。

「前回の東京五輪は10月開催だったが、最近は『夏縛り』になっている。これは、他の人気プロスポーツと最も競合しない時期に開催したいという米国の放送局の都合です」(矢嶋さん)

 五輪の放映権は、米3大ネットワークの一つNBCが保有している。東京五輪を含む夏冬4回分の放映権料は44億ドル(約4765億円)。IOCの財政はその莫大な放映権料で支えられており、NBCの意向に逆らうのは難しい。

「もし日本が放映権を買えれば時期をずらすことも可能ですが、今後景気が悪くなることを考えれば、手を挙げるスポンサーは考えにくいですね」(同)

(文中一部敬称略)(編集部・大平誠、深澤友紀)

AERA 2020年4月6日号より抜粋